サステナビリティ倶楽部レポート

[第74号] 新世代の証券アナリストに必須の非財務情報分析力

2017年08月18日

 

●証券アナリストのビジネスモデルが大きく変化
前号でGPIFのインデックス投資について話題にした。ESG投資以前に、メインストリーム投資で投資家は非財務情報をどのように扱っているのだろうか。
そんな関心をもっていたので、今回弊社の研究会で自動車セクターを中心に証券アナリストの実績を積み上げてきた松島憲之氏にお話を伺った。現在は三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフリサーチアドバイザーとして、後に続くアナリストの育成に専念している。

アナリストを取り巻く世界の環境は、年々厳しくなっている。欧州では委託手数料の改定が進んでおり、リサーチ費用が圧縮される結果リサーチハウスの縮小,廃止が起きると予想されている。米国では2000年よりフェアディスクロージャー規制を導入。アナリストにとっては特定情報の入手が難しくなるため、公開情報からどのように洞察し、分析を深めるかが腕のみせどころになっている。日本でも法制化に向けて準備が本格化する方向だ。洞察力に長けている質のいいアナリストだけが生き残れる選別の時代になっているのだという。

松島氏はこのような事態になる以前から、業種や企業を徹底分析した深掘りレポートを極めてきた。「そんじょそこらのアナリストやファンドマネジャーとは違う」気迫が漂っており、話す内容一つ一つに「分析のプロ」の奥深さが滲みでている。

今の投資専門家(アナリストやファンドマネジャー)の多くは情報を見極める眼がなく、同じ公開情報でも価値を見いだそうと気づかない者が多い、と指摘。情報は大量に氾濫するものの、必要なものを拾い出しロジックを組み立てるだけの時間もなくまた能力も不足しているという。

企業価値を徹底して分析するとなれば、必然的に非財務情報の重要性が高まる。メインストリーム投資家にとっての関心のあるものは「事業戦略の実現性を裏付ける財務情報との関連性が強い非財務情報」である。知的財産やリスク対応への評価が重要性を増している一方で、まだESG要因は中核的とまでいえないようだ。

ESG情報についていうと、ESGと3分野が並列しているようにみえるが、投資家にとってまず重要なのがG。続いてESがくるという。ESは投資家が考える時間軸とは異なることから、まだまだ共通理解が無い状態だ。財務への影響度合いが明確に示せない点も、投資家がESの評価に距離を置く理由だろう。

●自動車セクターのイノベーション分析
松島氏は非財務情報がどれほど企業評価にとって重要かということを、自動車セクターを例に徹底分析している。主要因は知的財産であり、「イノベーションを生み出す原動力」を様々な要素から分析し検証していく。コア部分の技術開発力の分析では、公開特許件数を用いた複雑な手法で各社の強みと弱みをあぶり出している。

ES要因の事業への影響として、例えばCO2排出量といった指標をどう考えるか伺ったところ、「投資家の関心は社会や地球環境がどうなるというよりも、企業経営がどう継続していくかという視点。現在CO2がそうした要因になっているとは考えていない」というお話だった。ちょっと残念。しかし、環境課題を「次世代自動車のイノベーションとしての技術要因」としてとらえてみると、分析可能なのではと思った。あるいは食品会社のようにサステナビリティ要因が事業に重大な影響を及ぼすセクターでは、ESに重点を置いた深掘り要素が見いだせるだろう。センスのいい次世代アナリストには、そういった切り口を見いだしてもらいたい。

●深掘り力をもったアナリストとのエンゲージメント
これまでもアナリストレポートを読んだことはあるし、アナリストと直接話す機会も多かった。そんな方たちと話していると、それっぽく書いていればよしという姿勢で、正直随分気楽な職業なものだ・・・と思えたものだ。これから証券アナリスト業界が厳しい状況に向かうとなれば、こうした人たちはどんどん淘汰されていくのだろう。ロジック化できる分析であれば、AIが十分機能する時代でもある。

そんな厳しい状況下で生き残っていくアナリストは、企業に対して経営の方向を指し示す指南役になっていくだろう。企業にとっては好ましい状況だ。投資家が十分に勉強して経営の内部や外部環境について突っ込んだ議論することでお互いが成長でき、エンゲージメントが意味をもってくる。インデックス投資のようなパッシブ運用では、経営を深くみて評価するなどできない。ESについてはなおさらなのだ。

といって企業にとって悩ましいのは、インデックス投資の網羅的な要請に対応しなければならないということだ。欧州系の投資家では、ESGを含めインデックスにあがった会社からしか投資しないというケースもある。インデックス対応は最低限と割り切って考え、まず広く間口を広げて効果的に情報開示することも必要になる。

そのうえで深掘りできるアナリストや長期保有の投資家に対しては、自社の長期戦略やサステナビリティ要因、経営理念を実現する人間力といったことをきちっと説明し、彼らの評価をよく聞いていくことだ。そこには自社内のリソースだけでは気づかない、今後の経営の機会やリスク評価が盛り込められているはずだ。

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