サステナビリティ倶楽部レポート

[第47号 攻めのガバナンスとしてのステークホルダーとの協働]

2015年03月20日

 

  • ROEに結びつくCSR活動を

先日「コーポレートガバナンス・コード」(金融庁・東京証券取引所)が発表され、上場企業の行動基準が示された。会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために、株主に対する受託者責任だけでなくステークホルダーに対する責務が盛り込まれている。コーポレートガバナンスの観点から「ステークホルダーとの適切な協働に努めるべき」と明示されたことは重要で、サステナビリティ課題が経営に無視できないことが再認識された。

 

ただし、単純にCSR=ガバナンスと考えるのは拙速だ。本コードでもCSRという言葉は使われておらず、CSRのうちガバナンス上重要になるステークホルダー対応はどういった部分かをよく考える必要がある。

 

そもそもコーポレートガバナンスとは資本市場の要請がベースであり、今回のコードも投資家の視点に立ったものである。ここでの成果とは、企業価値つまり株主価値の向上につながるものが期待されている。投資家にとっての企業価値の向上とは「資本生産性」の向上であり、つまりROE(株主資本利益率)への結びつきが説明できる活動である。ここが守りではなく「攻め」のガバナンスといわれる点だ。

 

  • 遵守するか説明するか(comply or explain)

本コードのベースとなる考えが、「遵守するか説明するか(comply or explain)」だ。

これをみると「まず遵守することを基本とし、それができない場合に説明する」と解釈されがちである。遵守が上位で、例外について説明という考え方である。

 

しかし、実はこれは正しい理解ではない。日本企業は規則を守ることを大事としてきたので、法規制に従うことは長けているが、原則に沿って自らで判断していくことには弱い。本コードのような原則主義のもとでは、自社基準による行動を説明していくことを主として行い、遵守はそれを補うことくらいに考えていく方がよい。

 

ステークホルダーへの対応では、自主判断が特に大事だ。社会課題への対応は、世界の各地でそれぞれの慣習と文化を考慮して対応しなければならず、法的基準などないと考えた方がいい。国連指導原則がその代表例で、Social license to operateとしての規範であることは、何度も説明してきた。ガバナンス・ギャップに直面するグローバルビジネスに挑むには、日本企業も原則主義に慣れていくことだ。

 

  • 日本的CSRの問題点

では、日本企業のCSR活動が何故攻めのガバナンスにつながらないのか、その課題を考えてみよう。

 

1)社内管理が中心

日本のCSRは不祥事への対応で始まった。対処方法もコンプライアンスをベースとして、社内で防止策を徹底することがCSR活動の基礎と考えられてきた。その延長で、コンプライアンスを超えるCSR活動も社内への浸透という行動がかなり多い。このことによってCSRの方向が社内指向になり過ぎることが問題になる。おのずとCSR担当者も内向きになる。

 

2)ステークホルダーと利害関係者の混同

といって、ステークホルダーをおろそかにしているわけではないのだが、問題なのは、ステークホルダーという用語があまりにカジュアルになってしまい、企業の活動により直接影響を受ける「利害関係者」を見なくなってしまうことである。

 

海外では利害を表にして会社に直接抗議してくるケースが日常で、その対応を怠ると経営のリスクになる。彼らとうまくやっていくことがエンゲージメント(協働)であり、コーポレートガバナンス・コードはそのことをいっている。さらにこの事態に積極的に取り組むことで事業にプラスにしていけば、リスクを機会に転じている事例として投資家にも説得できるだろう。

 

3)企業価値を説明できていないCSR

CSVが注目されてから、価値創造のCSRという考えが定着してきた。

これは前向きなことなのだが、この”Shared”の意味あいを考えることが必要だ。CSR担当者がやるべきは、社会・環境面の活動が企業価値の創造を生むことを説明することだ。企業価値というのは資本生産性なのであるが、現状多くのCSV事例はCSRレポートでの事例紹介といった程度の掲載で、これでは投資家には伝わららない。統合報告のなかで、事業戦略に社会要素を組み込んだ統合思考による価値創造を説明できることだ。

 

4)社外へのコミュニケーションの問題点

これは1)とも関係する。外部へのコミュニケーション、特に海外に向けてのコミュニケーションが非常に問題だ。「やっていることが大事で、公表することではない」という日本的考え方に対し、海外では「説明することが責任でもある。説明していないことは、やっていないことと同じ。」と取られるのだ。外国語での発信が、日本語版CSR報告の英語版のみという企業が多いが、これではコミュニケーションとはいえない。

 

海外のステークホルダーと直接接触し、それぞれと対話、活動していないので、社外へのコミュニケーション手段も乏しい。対象のステークホルダーからはじめ、協働について根本的に考え直すことから始めなければならない。また、IR担当による投資家に向けたコミュニケーションも十分でないのである。会社全体でコーポレート・コミュニケーションの役割を強化することだ。

 

  • ステークホルダー・リレーションズ(SR)という考え方

そこで、ステークホルダーとの協働がどう企業価値の向上につながるかを解説し、日本企業がこれまで社内管理に重点を置いてきたCSRから、社外に向けて発信していく「ステークホルダー・リレーションズ(SR: Stakeholder Relations)」を提案したい。ここでは、SRを下記のように考えてみたい。

・企業を取り巻くステークホルダーとの望ましい協議関係をつくりだすための、効果的な双方向コミュニケーションを実現する情報開示、広報活動やこれに関連する様々な活動。

・さらにステークホルダーに対する活動だけでなく、株主や投資家に対するIR活動の一環に位置づけ、事業との関連を広報していくことまで含む。

 

これまでのSR(Social Responsibility)をSR(Stakeholder Relations)に進展させることが、ガバナンス戦略のひとつのカギになる。特に2番目の点である投資家に向けたSR活動としては、サステナビリティ要因のリスクと機会の事業活動への関連を財務ベースで説明づけることだ。例えば、住民との協議不足によって開発投資プロジェクトが一時的に運営ストップしたケースでは、その間のロスを換算することで、CSRリスクとして金額評価できる。このリスクを回避するために協議プロセスは必要であり、結果として財務への影響が軽減できると説明するなどどうだろう。

 

こうした評価方法に形式はない。経営陣や投資家を説得するために、皆さんがアタマを使ってロジックを組み立てていくことだ。

 

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2015年度 サステナビリティ経営ネットワークのご案内

来年度も、創コンサルティング主催「サステナビリティ経営ネットワーク」を開催いたしなす。戦略的CSRとサステナビリティ経営のさらなる展開に焦点をあてた研究会ですので、どうぞご参加ください。

 

・日程とプログラム:

第1回 5月下旬  最近のサステナビリティ動向のレビューと全体討議

第2回 7月中旬  責任投資とESG

第3回 9月上旬  コーポレートガバナンスを取り巻く状況

第4回 10月中旬  CSR情報の開示とレポーティング

第5回 11月下旬  持続可能な開発目標(SDGs)の策定状況

第6回 2016年1月中旬  ビジネスと人権

第7回 3月中旬  価値創造につなげる戦略的CSR

・アドバイザー: 冨田 秀実氏

・参加費用:  企業1社あたり200,000円(税込216,000円) 2名様まで参加可

 

※詳細とお申し込み受付は下記サイトをご参照ください。

サステナビリティ経営ネットワーク2015 開催のご案内