サステナビリティ倶楽部レポート

第46号 「世界の水資源リスク」

2015年02月24日

●水リスクは経営リスク
世界をみていると水資源への関心が高まっているが、日本ではたくさん雨が降るのでなかなか実感がわかない。ビジネスは世界につながっており、水問題も他人事ではないのだが。

ということで、先日の研究会テーマは「水資源リスク」の現状を取り上げた。
まず「CDPウォーター」について、日本事務局に説明してもらう。CDP(Carbon Disclosure Project)では、CO2情報から始まって、現在では水情報のほか森林情報、さらにはサプライチェーンでの情報についても企業の開示を要請しており、投資家が活用できるプログラムを提供している。

「水がリスク?」
という反応がまだまだ多い。確かに日本国内だけでみればあまり困ることはないだろう。問題は海外の話だ。
まず、「水不足」。各地域での水の絶対量が減っていることだ。
そして「水ストレス」。水量だけでなく、水質悪化や水使用の制限などにより、十分な水が得られないことが軋轢を生む。

こんな状況なので、種々の経営リスクが考えられている。
・物理的リスク: 水を確保できない。
・規制リスク: 水の利用に関する規制が強化されるため、その対応に追われる。
・評判リスク: 水の取得をめぐって地域で摩擦が起き訴訟など起これば、企業への風当たりが強くなり、ステークホルダーからの信頼が失われる。また消費者が水に対して過敏になっていれば、消費しつづける企業の行動様式に疑念をもたれることもある。

●経営向けの評価ツール活用
世界の投資家は、日本で考えている以上に水リスクへの関心が大きい。水の供給に?があれば、事業の継続が難しくなり業績に跳ね返る。コミュニティとの対立も、事業に影響を及ぼす十分な材料だ。その対象範囲も、自社操業だけでなくサプライチェーンまで含めて考えることが徐々に一般化している。

CO2であれば、世界のどこで排出してもその量は変わらない。ところが水という要素は、同じ一単位であっても地域や流域ごとにもたらすインパクトが変わってくるので、地域ごとの対応をとらなければならい。

こうした水資源の特質を考慮して、海外では水リスクを評価するための種々のツールが開発されている。一方日本は地域ベースの水情報は豊富だが、これの経営への活用となると体系的に行われておらず、グローバルカバレッジからみて出遅れている実状だ。

●飲料メーカーには死活問題
そんななかでも水リスクに積極的に取り組んでいる企業として、キリンの事例を発表してもらった。
飲料ビジネスは水の使用が死活問題で、やはり意識が高い。水そのものより原料となる農産物を育てるための水が課題で、すでに経営リスクのひとつになっている。

同社では、世界の原料調達での水リスクを定量的に把握した。世界で使われている自然資本会計のいくつかのツールを検討し、活用している。こうした海外のツールをそのまま使おうとしても日本の中は複雑で、そこではローカルな情報を活用したという。
例えば日本では自治体などが地域のハザードマップといったものを出しているので、それが有用だ。また単純に地域マトリックスで区切られるのではなく、水源はどの流域なのかが重要で、川ごとの判断が必要になる。

こうしたことは既に経験でわかっていたことで、今回の結果はかなり想像していた通りの算定になったという。これはまた意味のあることで、全世界での計算を試み数値を経営幹部へ示すことで、説得力が出ている。

●消費者にも意識喚起を
さて、それでは対策をとなると、それがこれからの課題だ。
例えば、水リスクの高い原料や地域が分かった場合の対策としては、1)他のリスクの低い地域からの調達に変更する、2)その原料の使用をやめて代替のものに切り替える、などがある。

1)の方策として生産地を変えても、その環境が今後も続くとは限らない。また2)については、消費者の理解が得られないまま変更することは難しい。例えば、同社では「午後の紅茶」で使うミルクがオーストラリア産であり、リスクが高いことがはっきりした。では、その他の地域で同じ品質のミルクが調達可能なのか、さらには仮にミルクを使わずに同じ製品を作れるとして、それを「ミルクティー」として売っていいものか・・・といったことが話題になった。

結局消費者が環境配慮や世界の水問題の状況を理解しなければ、メーカー側の開発努力だけで対応できないことに行き着く。このままの食習慣では将来ものがなくなる、という懸念を一人ひとりが持つことだ。

●水の確保を巡る争いに発展
水問題は、国際的な争いのネタに発展しているケースも多い。
砂漠地域など水資源の乏しい地域では、水の取り合いから紛争へとエスカレートしている。衛生的で引用可能な水にアクセスできることは、最低限の生きるための権利であり、環境問題が人権問題として指摘される例といえる。

水の供給がある程度豊富な地域でも油断はならない。
これまで問題なく水が供給できていても、気象条件が変わって供給量が少なくなっているところなど要注意だ。また、供給そのものに問題なくても、周辺で開発が進み、工業用水や生活用水の需要量が急増すれば、それまでの工場に分配される水量に影響が出ることも起こっているのだ。

本当に必要な量や質の水が確保できているのか・・・。
進出した地域の政府の動向などに頼っているのではなく、自社で手配しなければならない。これからはますます、「水はふんだんにあるわけではない」が前提でのスタートになる。

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「ビジネスと人権」について、動画での説明をアップしています。

https://www.sotech.co.jp/info/870