サステナビリティ倶楽部レポート

第45号 サプライヤー監査では改善策にならない

2015年01月22日

 

●労働NGOによる中国の実態指摘

ユニクロの中国サプライヤーの労働状況をNGOが実態調査し、これを先週日本で発表、主要メディアが報道して話題になっている。

調査を行ったのは香港の労働NGOSACOM(Students and Scholars Against Corporate Misbehaviour)で、日本の人権NGOであるHRNHuman Rights Nowと共同して12月末に書面で勧告を行い、1月に入って記者会見などのキャンペーンを展開している。

 

日本企業の間でも人権課題への関心がもたれ、社員の人権研修で意識啓発を促すプログラム等が始まっている。しかしこのようなボトムアップのアプローチでは、今世界が問題にしている「国際的に認められた人権」の深刻度がなかなか経営に伝わらない。人権侵害が事業展開のうえで経営リスクになることを知らしめるには、社外のNGOから自社の人権侵害を強く指摘されて痛い目に合い、経営課題であることをわからせる「人権ショック」が必要と思っている。

 

そんな思いから、HRNとは昨年春にこのテーマの講師をして以来、ビジネスと人権の分野でのアドバイスを継続してやってきた。今回の報告書も事前にコメントしてきたが、実際のキャンペーンは思った以上の反響で、柳井社長には十分なショックをもたらすことができて効果は大きかったと思う。

 

●サプライチェーンも責任の範囲

同社はこれを受け、115日に行動計画を発表した。

多くの日本企業がこのようなNGOからのアプローチに無反応である実状のなか、同社が迅速に当面の行動計画を発表したことは評価したい。しかしこれにはまだいくつか課題がある。

 

今回の対象は、ユニクロとは資本関係のないサプライヤーの現場である。同社がこれまで重視してきたのは直接操業する工場の管理で、その先のサプライチェーンまではあまり考えてこなかったことが、今回の対応でよくわかる。今やこの業界のCSRにサプライチェーンまで含めることは、常識になっているのだが。

 

発表された行動計画では、今回の事態について、ユニクロ自身が改善するというよりもサプライヤーに是正を要請するという姿勢の方が強くみえる。サプライチェーン責任は、ナイキに始まり20年前から指摘されてきたことだ。当時「自社工場ではない」ために責任回避を続けたグローバルブランドは、市民社会から反発を受けて評判は失落、泥沼に陥ったのだ。

 

この手痛い経験から、今ではサプライチェーンの問題を自社の責任として対応している。要請が圧力にならないよう、ブランド会社自らが現場工場の操業について改善に取り組む。これはキャパシティ・ビルディング(能力向上活動)と呼ばれている。ユニクロの計画にも協力の姿勢は織り込まれているが、具体的にどのようなものかは曖昧さが残る。

 

●企業間の連携と協働への働きかけが必要

今回対象の工場では、ユニクロだけでなく様々なブランド会社の製品をつくっている。各工場での改善プログラムを発表しているが、同社の要請がどこまで実現可能だろうか。ここは1社だけの対応でなく、同じバイヤーである企業との話し合いが必要になる。競争が激しいこの業界、どこまで協力できるだろうか。

 

そもそもこうした搾取労働の実態はこの2社に限ったことではなく、氷山の一角だ。食品の異物混入のような突発的、一時的な事態であれば、その原因を特定して再発防止に向けた解決が可能だが、中国の労働搾取は構造的な問題だ。1社だけの管理強化でできるものではないのだ。といって責任を逃れるわけにもいかない。

 

そこで欧米企業がとっている対策が、同じ問題に直面する企業らが集まり、労働者団体やNGO、公的機関と対話と重ねて業界や地域全体の問題解決に取り組む行動だ。例えば昨年のバングラデシュの縫製工場倒壊のあと、欧米企業は協定グループ「アコード」と「アライアンス」を結成して、縫製工場のチェックを協働で進めている。日本企業はこうした動きの有用性を理解していないようで、今回のキャンペーンを機にユニクロが中心になってイニシアティブをつくることが期待される。

 

●侵害からの救済まで

こうしてみてくると、監査やモニタリングがいかに部分的な取り組みでしかないかがわかるだろう。これらは手段であり、これだけを強化したところで現地の人権侵害はなくならず、企業の評価にもつながらない。

 

そもそも監査は人権デュー・ディリジェンス(あるいは人権マネジメント)の一プロセスだ。国連指導原則では企業にデュー・ディリジェンスを要請しているが、体制をつくることは予防措置でしかない。実際に人権侵害が起こっている際には、原則の第三柱である「救済措置」をとることが企業にも求められている。ここで要請される「苦情処理メカニズム」とは、侵害の解決に向けて影響を受けた利害関係者の救済に努めることまで含んでいる。それがサプライヤーの労働者であっても、だ。

 

国連指導原則ができて3年経つが、日本での理解はここまでいっているだろうか。管理体制をつくることは一部でしかないのだ。このことは環境マネジメントでも経験した。ISO14001の認証をとってもそれはシステム要件を満たしただけで、環境経営とはその体制をもったうえで実際の環境パフォーマンスを減らすことなのだ。

 

●ビジネスモデルから見直せるか

さらに突っ込んでいくと、このような搾取状態が恒常的で一向に解決しないのは、ブランド会社の調達行為に原因がある。早く、安く作れるサプライチェーンを会社が追求し、サプライヤーに要請する取引条件そのものを見直さなければ、現場では要請だけが増えて経営難に陥る。中国サプライヤーがそれを受け入れなければ、別の国の工場に委託するだけで、世界の問題解決にはならない。バイヤー側のビジネスモデルそのものを、どうやってサステナブルなものにするか。

 

この点、競争の激しいアパレル業界では、1社だけでは進められない問題だ。そのためにも、同じ課題を抱える同業社が集まり、ユニクロが業界のリーダーシップをとって展開していくことが求められる。

 

●グローバルスタンダードのCSR企業に

今週は全豪オープンテニスが開催されている。

ユニクロのテニスウェアを着た錦織圭選手は、世界のスポーツルールのもとでチャンピオンになった。そのためには、アメリカを活動拠点として国際レベルのコーチをつけ、グローバルに実力をつけてきた。

ユニクロが「国際的に認められた」ブランドを確立するには、本業においても日本のスタンダードで対応するのではなく、世界のステークホルダーに一層目を向けて信頼を築くことが求められる。