サステナビリティ倶楽部レポート

第21号「アジアでのコミュニティ評価」

2012年11月21日

●サイトベースの評価

株主やステークホルダーから説明を求める声が強い欧米企業では、CSRについても活動を客観的に評価して公表する試みが多くみられる。
評価というと、財務との関係で企業全体の価値のなかでESGの寄与する度合いの計測を中心にみてきたが、財務的なアプローチばかりでなく様々な切り口で「外からみて説明できる」評価も多い。このレポートの第16号「誰のため、何のための企業価値評価なのか」でSAB Millerの例を取り上げたように、サイトベースでの地域への社会・経済評価(socio-economic assessment)もそのひとつだ。
第16号「誰のため、何のための企業価値評価なのか」

弊社でもCSRの評価アプローチを思索しており、このたび社会面からみた海外サイトでのコミュニティ評価に携わった。
http://www.toray.co.jp/csr/highlight/2012/hig_002_01.html

海外の拠点で、現地事業所のマネジメントとともに従業員や周辺コミュニティのステークホルダーと個別にヒアリングする、というかなり突っ込んだレビューができかなり充実したものだ。
このようなプロジェクトは、CSR担当だけでは難しいし、本社の経営層はもちろん現地事業所の理解が得られないと進まない。事業活動が広がり組織が大きくなると、社内ステークホルダーの理解を得るプロセスが最大の難関だということはよく聞く。
CSR推進に限ったことではないが、グローバル経営に挑まねばならない以上、進出先の現地との連携は必須になっている。

●ローカルの実状を聞く

この調査はCSR Asiaが展開するコミュニティ評価の手法を活用し、弊社との共同実施でISO26000の中核主題にも対応させてまとめたものだ。オリジナルの手法は、主要なステークホルダーごとにインタビューを行い、5つの資本(人的、財務的、自然環境的資本、物理的、社会的資本)の切り口で評価していくというものだ。「資本」というとちょっとわかりにくいが、昔からいわれてきた「経営の三資源(ヒト、モノ、カネ)」を基本に、社会と環境を加えたものと考えればいい。

どういったステークホルダーを対象にするかは、そこのサイトがどんな操業をしているかで決めていく。ともかくローカル人材を対象にするのだから、我々評価チームもインドネシアの現地専門家の存在が欠かせない。日本人の私たちではそもそも言葉がわからないし、管理層から依頼された部外者に普段考えていることなぞ話せるわけがない。
社内外でわかりやすくするためにISO26000調査と呼んでいるが、各主題ごとに課題をチェックするようなレビューとは異なる。

今回インドネシア側のリーダーとしてはいってもらったジャラールは、なかなかユニークなキャラクターの若者だ。地域の環境保全や住民の生活全般に軸を置きながら、主要な企業にもサステナビリティ面でのアドバイザーを務めている。しかし大企業から抱え込まれるような働き方はしたくない、とある程度の距離を置いている。自立した地元の社会
企業を一緒につくる、という構想に意欲を持っていて、ご自身が引っ張っている地域保全の現場にも連れて行ってくれた。工場周辺を事前にみて回った際には、近辺の人たちに自然に話しかけて会社の評判をさりげなく聞いていたのもおもしろかった。

コミュニティのなかには社内のステークホルダー(社員)も含んでおり、インタビューでは多数の社員から話を伺った。管理層ばかりでは現場の実状がわからないので、できるだけ階層のばらつきをもたせるようにすることが大事だ。それもグループと個人それぞれに分けていろいろとアプローチする。会社が認める第三者としてこちらも「何でも話してください」という姿勢でいるので、会社のいい面だけでなく困った面や要望などいろいろと出てくる。

このような第三者による評価プロジェクトを行う欧米企業では、NGOを活用することが多い。SAB Millerの場合はOxfamが実施している。国際NGOは評価やプロジェクトマネジメントのノウハウをもつとともに、現地ネットワークもあるのでトータルのプログラムを提示できる。日本企業は、国内で地域の機関とコンタクトすることはあっても、海外サイトで現地のローカルステークホルダーとダイアログするところまでなかなかいかない。しかしそこまでやらなければ、海外の現場がどうなっているかはわからないのだ。

実際今回の調査を通して、会社側(特に日本本社側)が気づかなかった点があがってきた。インタビューで得られた意見には、事実認識が不十分なために自分なりに結論づけてしまったり、時に感覚的な発言もある。それでも、そのようにみているという声があがったことは大事に拾わなければならない。

そして何よりも、この評価プロセス自体がステークホルダーエンゲージメントなのだ。審査機関などよりもNGOに依頼することで、外部からの信頼も得られる。NGO側にも企業から転職してきた方、また逆方向の人材の流動はよくあり、NGOの専門性は日本よりも各段に高い。

●経営層に説得できる報告

こうしたコミュニティベースの評価が有用なことが今回わかったが、なかなか日本で進まないようだ。日本のトップは、現地での関係はうまくいっているし何であらためて評価なのか?とそつない。また現地でステークホルダーの考えていることを拾い上げても、それが日本企業の経営陣にわかるような言葉やまとめ方がされず、「こんな状況です」の報告で終わりになってしまうことも多いようだ。

今回は、分析アプローチをISO26000に対応させたことが弊社側の工夫だ。地域の生の声を分析する際には、ビジネス側の関心との優先性を考慮し経営層が理解しやすいワーディングや構成にすることも重要だ。偏った見方ははずしながらも、現場感をどう経営にわからせるかの伝え方であり、ここがチェックシートでは表せない評価側のスキルになる。

コミュニティというとどうしても一般市民のレベルまで降りる、という素人感覚を大事にしがちだ。これからはそのレベルをアップして、経営会議で重要議題としてあげられるよう社内でも専門性を組み込んでほしい。