サステナビリティ倶楽部レポート

第14号「人材の経営:日本の強み/ニッポンの弱み」

2012年04月4日

日本企業は「人を大事にした長期経営」を貫いてきた。日本経済が成長し世界に日本ブランドが浸透していった時代には、このことに皆自信をもっていた。しかし、本当に日本企業はヒトを大事にしているのか?取り巻く状況が一転し経営が厳しくなってくると、そのほころびが見えている。今回は海外拠点での人材の経営に注目してみる。

●長く働けます

日本企業の海外拠点に行ってみると、勤続年数の長いローカルの幹部や管理職の社員によく出会う。社員の皆さんが「事業の再編が日常の欧米企業より、地道に自社事業のルートを展開してそこを強化していく日本の会社の方がいい」と口を揃えていたことが印象的だった。

生活の安定を第一に考えたい人たちにとって、会社がそこに居続けてくれることは就職の最も大事なポイントだ。日本企業は進出した先で長く定着することをよしとしているので、安心して働けるということで評価があがる。逆にそのような安定志向の人が日本企業を選ぶのであって、キャリア志向だったら目の前で高い給料を払ってくれる欧米や新興企業(最近はこちら)にいくのだろう。

これも好業績を上げ続けていれば問題ないが、この先事業の見込みが厳しくなると長期雇用は負担になる。また現社員がずっといるということは、新たに若い世代を雇う枠が狭まることにもなる。経験を積んだ管理職が定着するのはいいが、時代の変化が激しい新興国では、新しい事にチャレンジする意欲を持った若手がどんどん入ってくることが大事だ。こうした層にいい仕事のチャンスが回って来ないことになり、若年層の日本離れが進むことになり、課題も多い。

●社員の立場を考えてます

多くの会社が人材育成に力を入れている。海外でもやはりそのような答えが返ってくる。特に生産拠点では、品質管理や生産技術に格別力をいれるところだ。

これまでの海外展開は生産拠点の拡大と強化が第一で、いいものをきちんと作るという日本企業の使命を着実に実行していくことが最重要だ。どこで操業しても均一の製品ができあがるよう、厳しい日本の基準を満たす徹底した管理が行われる。手作業を主とする労働集約的な業界の場合は、多数の工員がひたすら自分の持ち場の作業に従事している。ひとりひとりがキチンと手持ちの作業をこなすよう技能を習得してもらうことが、生産性向上の要だ。ここで教育研修をしっかり行うので、向上心のある社員にはこのような学ぶ機会がありがたい。本人のキャリアアップにもつながり、総じて社員の間では評判がいい。

日本への派遣研修を行う企業も多いが、海外出張に関連して日本とそれ以外の企業でちょっとした「常識の違い」がある。例えば出張の際、有給休暇をつけて延長して滞在することは日本企業では認められない。仕事で行くのについでに休むとは何事か、ということで日本では当たり前のことなのだが、欧米人に聞いてみると「何でいけないの?」と全く逆なのだ。延長分は自分で払うし休暇扱いなので、何も問題ないという。帰りは会社持ちの航空券で帰ってくる。

日本のなかでは問題にならない休みの扱い、日本企業だからといって海外でも当然として適用していることがローカルの社員には「?!」になる。会社の規則なのだから上司の前でおおっぴらに言えないが、日本のこの常識に少なからず疑問を持っている社員は多いようだ。

現地の社員には、なかなか海外旅行の機会がない。会社の研修で日本に行けることは非常なインセンティブだ。せっかく行ったのだから日本の街や観光地に行ってみたいと誰でも思う。しかし研修が終わったらすぐ帰らなければいけない。

その間に何かあった場合の責任を誰が持つのかといいだせばキリがないが、せっかく日本に来たのだから、買い物をしたり人々の様子を見たり・・・、こんな時間を過ごし日本のいろいろな面を経験することが人材育成上プラスになるし、会社への評判も上がるではないか。

出張の延長は、日本企業が社員の立場よりも会社側の論理中心であることの一面だ。出張にかかる移動時間の扱いなど、他にも同様のことがいろいろとある。勤務に従事していない時間を仕事の延長としてみるか個人の時間とみるかだが、日本流を通すことは押し付けになり、結果「そんな会社だったら居たくない」と辞めてしまうことになりかねない。

かくいう私も、出張で行った海外でせっかくだから足を延ばしてどこか行こうか・・ができなくなるのが窮屈で、会社務めに戻りたくないと思うことしばしばなのだ。

●世界中どこでも日本の経営スタイルです

CSRの基本は、どの時代にも不変の経営理念の実践でありその具現化でもある。その理念に、企業は利益のためだけでなく社員や社会の発展に寄与するといったことが含まれている。時代ばかりでなく、世界のどこでもこの根本は通用するものだ。

理念を現場レベルまで浸透させ、安全第一や環境保全、品質向上を達成していることは日本企業の強みだ。掛け声だけでなく社員の意識や日常の行動に落ちるまで浸透させ、それが事故ゼロや生産効率のアップなどの成果につながっている。

しかしここでの弱点は、日本化させようとするあまり現地化が遅れたり、現地の意識を萎えさせてしまうことだ。今や日本企業が競争する相手は、韓国や中国企業などスピード感をもって立ち上げる企業たちだ。こうした企業が素早くスタートアップできるのは、自社丸抱えのビジネス展開でなく、ローカル企業を買収するなど現地のチカラを使うことをまず考えるからだ。

何でも自前で管理する経営ばかりにこだわっていると、こうしたスピードに勝てない。また製品の品質の高さを誇るあまり製品仕様のオーバースペックに陥ったり、そこそこの要求に対して過度な品質を提供していることもある。さらに、日本式の生産技術にこだわるため、主要な人事ポストは現地の人材ではなく日本人で占められているといったこともおこる。ローカル社員は信頼されていないと感じ、懸念や不満を招いているケースもよく聞く。

「日本の人材育成や生産技術は最高なので、これを世界に広めることは現地にプラスになるのだ」と考えることが、どこでも歓迎されるわけではない。気付かないうちにローカル社員のココロが離れある日会社を離れていく・・といった事態はどこでも起こっている。これからはさらに新興国企業との競争が激しくなり、人材争奪・流出が大きな課題だ。

日本発の「人を大事にする経営」から、それぞれの地域に柔軟に対応できる多様な発想をもってグローバル経営できる人材戦略が求められる。

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