サステナビリティ倶楽部レポート

第5号「ダイバーシティ経営大賞2011」

2011年05月30日

●金融機関に広がり出したダイバーシティ

「ダイバーシティ経営大賞」(東洋経済新報社主催)も今年で4回目。今年の受賞企業は以下の通りだ。

  • 大賞: 日本IBM
  • ワークライフバランス部門賞: 第一生命保険
  • 女性管理職登用部門賞: あいおいニッセイ同和損害保険
  • 従業員多様性部門賞: ソニー
  • 特別奨励賞: アクサ生命保険、シャープ

今年の傾向をみると、金融機関が増えたことがひとつの特徴で、受賞企業だけでなく応募全体でも増加している。金融機関の特徴は、制度や施策の整備が広がっていることで、まずは見える体制づくりから始めようということだろうか。

このように整備型、ボトムアップ型のアプローチは金融に限ったことではないのだが、こうしたきっかけであるとあまり会社間の特徴が見られない。金融機関は商品の違いが出しにくく、サービスでも制約が多いので、その傾向が顕著なのだろうか。大賞の要件には、ダイバーシティが経営戦略に組み込まれているか、といった点が重視されるので、それにはまだもう少し頑張ってもらわねばといったところだ。

その点日本IBMは、戦略として人財の積極活用としてダイバーシティを重視していることが様々な展開から見てとれる。欧米企業は、人種や女性登用などの風当たりが強いので早くから浸透しているのは文化の違いでもあるが、グローバル市場で競争していかなければならない今日、ダイバーシティは外来などといっていられない。

日本IBMの取り組みもグローバル主導ばかりでなく、日本法人独自の努力で根づいている。例えば、テーマごとに役員をリーダーにした6つの評議会を設置して経営レベルで実践をコミットするなど、推進を支える体制。また新たなプロジェクトであるDiversity3.0は、グローバル化に即応するイノベーションを人材面で切り拓こうと、とてもプロアクティブだ。

●ダイバーシティはオンナ子供の仕事か・・

日本企業の間では、ダイバーシティといってもまだ女性の登用や障害者の対応に留まるところが多い。会社の活性化はヒト-社員がどれだけ意欲的になれるかにかかっているのかであり、それには従来のモノトーン環境では実現しないのだが、なかなかそう発想を切り替えてもらえない。

日本のダイバーシティがまだ表面的なことは、表彰式の時によく表れた。表彰式で受賞の言葉を述べたのはどの会社も役員レベルなのだが、これがすべて男性。早くこのポジションに女性が生まれてほしいところだ。一方で、パネルディスカッションに参加したダイバーシティ推進責任者となると、これが全員女性なのだ。ダイバーシティ=女性登用でしかなく、さぁ社内で展開となるとオンナ子供の仕事・・・なのか、と残念。

こういった認識なので、ダイバーシティ施策に事業戦略にどう生かすかという会社なりの特徴がみられず、体制整備が中心にという結果になるのかと思えた。商品に違いが出せない金融機関ならば、サービスや働き方で特徴を出すというような自社なりのダイバーシティが出来るだろうに・・と外から見ていて思うのだがその道は遠そうだ。

●グローバルな多様性がこれからの課題

大賞以外の賞には、毎回工夫を凝らしている。昨年は従業員多様性部門賞を設けたし、今年は特別奨励賞が加わった。優れた会社を称賛するだけでなく、成果が不十分でも努力している会社に「頑張っていますね」と外部からエールを送ることもこうした表彰の重要な役割だ。

ダイバーシティ担当者の話を聞くと、社員に理解して実践してもらうことが大変なのだ。なかなか実績が評価しにくい活動ゆえに、外から背中を押してもらえると社内でもやりやすくなる。

そこで次回に向けて、どんな賞があったらいいかを審査委員の間で考えた。

私が強く押したいのは、グローバル人材推進賞だ。日本企業に欠けているのは、経営をグローバル展開するチカラだ。グローバル人材というと日本人の海外での要員と考え、まず外国語を話せるように・・から始まりがちだ。だがそれよりも、広がるマーケットでその現地の人材をどう取り込んだ経営をするかが重要だ。もう日本人が中心になって本社の方針に沿って、などといっていられない。どの会社も日本人駐在を最小にしてローカルの採用を増やすという方針をもっており、現地で経営を任せつつ自社のコンセプトを脈々と展開しなければならない。グローバルでの戦略的ダイバーシティ経営だ。

IBMなど欧米企業がダイバーシティを戦略として重視しているのは、雇用制度の制約から来るのでなく、世界市場に事業を展開するために必要だからだ。日本企業にとっても他人事ではないはずで、ニッポンのオトコだけでやれないことがわかったら、早くダイバーシティ志向をもたないと追いつかない。

海外でのダイバーシティの必要性は、以前のレポートでも書いた。CSR倶楽部レポート 第77号:「海外拠点 ダイバーシティ経営の必要性」

今のところ、海外での展開で人材確保がまったく難しいというわけではない。日本企業だけが問題だということでもない。現地ではローカル人材のトップも多く、うまくやれている例もよくきく。その国で迅速にローカル判断して、積極的に市場に入り込んでいる。

●日本本社の幹部にグローバルダイバーシティのマインドが必要

ここで問題なのが、日本の本社だ。それぞれの市場では現場密着の仕事をしていればいいが、本社の判断が必要になった時まったく現場の感覚がなくて、これまでの日本中心のビジネス判断の延長でしかできない、という話をよく聞く。意思決定が遅くなり、そんなことをやっている間にビジネスチャンスを逃す。グローバル企業といわれている会社でさえ、本社トップの意識や意思決定の機構がまるでドメスティックなのだ。

日本の本社はローカル日本の拠点ではなく、グローバルの拠点なのだ。日本はもう高齢化したスピードが遅い国で、それを基準に考えていてはたちうちできない。「今」起きている世界各国の状況を取り入れる素養が必要で、それには本社にも人財をどんどん国際的にしておき、Non-Japaneseの発想をいつも取り入れる、という姿勢が大事なのだ。日本という場所がそれにふさわしくないならば、本社を移転するくらいを考えることだ。

新興国市場でいい人材が集まって日本企業が成功している話も多い。けれども、このようなローカルの幹部が日本本社に来てみたら、そこは日本のオトコばかりで、意思決定も日本発の指向でしかなかったら、皆おおいにがっかりしてしまう。会社の稼ぎ頭となっている新興国の人材は、とても強気だ。自分たちが会社を支えているのに、そんな存在を認めてないと映れば、モティベーションが下がってしまう。

女性の活用についても「海外では積極的に女性を登用していますから」という会社も多いが、日本に出張してみたら女性がいないとわかれば、「こんな人材が限られる会社では、ワタシの出世も見込みないな」と、さっさと別の会社に行ってしまうだろう。会社への影響は、海外の目の届かないところで、しかし確実に表れる。海外で人材がいつかない理由は、結構日本の経営側にあったりするのだ。日本のなかのグローバル・ダイバーシティ意識を高めなければならない。

●若者の活躍できる会社

さらに、世代間のダイバーシティも必要だ。経営層がシニアで占められていて、最新の世の中の動きに対応できるだろうか。パラダイム・シフトが求められている時に、これまでの成功体験ばかりで発想する人材ではやっていけない。今伸びている新興国市場でのキープレーヤーは、皆若い世代ばかりだ。彼らのエネルギーをどんどん取り込んで、素早い判断とフットワークの軽さを経営に取り入れることだ。

「こんな若造が」といった上から目線で見ているような経営者が日本の幹部に蔓延していれば、これではダイナミックな市場での手を打つことが遅れる。年配者にとって居心地のいい環境は、若者にとって窮屈だ。定年まであと○○年と数える逆算族よりも、将来の夢を実現した若者が活躍でき粋に感じる会社もダイバーシティ経営のひとつだ。日本の若者に意欲が足りないならば、どんどんアジアの意気揚々とした人材を採用し、定着できる環境をつくってあげることが定年間近の皆さんの役割でもある。

●日本式にこだわりすぎない

外資系企業と日本企業のダイバーシティへの意識の違いはここにある。海外に根付くために様々な経営のグローバル化をやってきた欧米企業は、ローカルで成功するためにそこの人材を活用し自社の戦力となって定着してもらうことの重要性を肌でわかっている。日本企業のグローバル化は、ものづくりが中心だったので、製造ラインや自社製品のケアといった日本式を植え付けることで、これまではうまくいってきただろう。

日本にいても世界を感じ、同じようなグローバリズムを社内外で実践する意識がないといけない。その点は欧米企業、そして新興企業からももっと学ぶところがある。「問題は自分たちのなかにある。」日本の幹部がそう気づくことだ。

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