サステナビリティ倶楽部レポート

第6号「企業価値を高めるサステナビリティ戦略」

2011年07月4日

●戦略的CSRの集大成

弊社が提唱している戦略的CSRを、昨年度(財)企業活力研究所の調査レポートとして体系的にまとめた。国内外の先進企業事例から成功要因を導く調査を行うとともに、主要企業のCSR担当者が集まる研究会も開催され、そこで検討された企業と政府向けの提言で締めくくっている。

そのウェブ版を下記にアップ、報告書の全文もダウンロードできます。 http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110622/106728/ http://www.jef.or.jp/PDF/j22-1-06.pdf

CSRを事業戦略の中枢に組み込むという戦略的CSRといい続けており、これに賛同してくれる方も多いのだが、欧米ではこの意味の場合には「サステナビリティ」を使う方が一般的だ。

今回の報告書では、事業戦略というよりも価値創造にどうつなげるかに重点を置く。この場合、「価値」をどう考えるか、である。最近のマイケル・ポーターは共通価値(Shared Value)を主張しており「CSRからCSVへ」といっているが、私たちが戦略的CSRの展開で目指す価値創造といった時は企業価値をさしており、その過程で社会価値の向上をも実現する活動としている。

●価値創造の筋道を分解して示すフレームワーク

ウェブ版では割愛したが、非財務情報の開示においては経済的利害に関心をもつ投資家と社会的利害を訴求するステークホルダーを分けて考え、両者の要請の違いを理解しそれぞれに方策をとることが必要だ。SRI投資家は投資家グループと思いがちだが、メインストリーム投資家からみて社会派(利害は社会的関心からくる)なので、ここではバリバリの投資家とは識別している。

投資家コミュニティで投資判断にESG要因を組み入れるようになってきたが、社会的利害と経済的利害のギャップはかなりあるので、そこをわかっておかないとこの課題は社内でも行き違ったままになる。社内ではIR担当が投資家向け説明の際にCSR要因をより積極的に説明すべきであり、それにはCSR担当者との連携が必要だ。

この考え方をよく説明しているのが、CSRヨーロッパのバックアップで実施するEABISプロジェクトだ。そこで示している「価値創造フレームワーク」では、企業価値の創造部分が、収益を構成する3つの成果要因とコストに関連する4つの成果要因の2つで構成されている。それを実現する様々なCSR要因をドライバーとして5つカテゴリーに分類し、これらが企業価値にどう関連づけられるかを明確にしていこうというものだ(報告書P.20)。

企業は、自社の様々なESG要因が収益とコストにどうリンクしているのかが説明できなければならない。ロジックをまず考えるからそれに伴うKPIが設定できるのであり、進捗の把握と成果の報告として経営管理上の意味が出てくるために、投資家にとっても“使える“指標になってくる。投資コミュニティにおいては、企業活動について、特に経営の品質や企業価値の創造プロセスにおけるサステナビリティ面での関連付けを説明するものになる。そしてフレームワークという共通のツールをつきあわせることによって、両者の対話を促すことができるだろう。

情報開示は投資家やステークホルダーとの接点になる部分なので、欧州を中心に開示フレームの検討が進められている。枠にはめて報告をつくるということでなく、何が重要なのかを企業が判断する基準をもち、それに基づいて説明することが求められる。型にはまった開示ばかりしてきている日本企業にとって、考え方の切り替えが必要だ。

●企業価値を高めるためのアプローチ

ここは戦略的CSRのコアの部分で、多くの先進企業の実証分析から分類している。経営に取り込むアプローチとして4つあげているが、どの企業がどこに重点を置くかは、業種や各社の考え方などで異なり、ひとつの企業ですべてをカバーするというものではない。むしろ自社の特徴をもつことが必要なのだ。「経営への効果」はアプローチの取り組み成果といえ、EABIS価値創造フレームワークの収益3要素にあたる。

この部分は、このウェブ掲載のシリーズとして、主要企業の事例紹介を続けて行うので今後の連載をご参照いただきたい。報告書の事例紹介よりも数を絞り、多少ストーリー仕立てにしている。GEのエコマジネーションなど日本で既に露出しているものより、まだ日本での紹介が少ないものを取り上げるようにした。

業種の特徴としては、製品や市場に重点に置くアプローチや地域での信頼構築は、B to C企業に多い。食品や製薬企業の積極性が目立つ。日本企業も遅ればせながらだが、世界でのサステナビリティを取り込むところがあがってきている。

B to B業種では、欧州の化学業界が早くからサステナビリティを志向している。日本企業は安全衛生、環境に留まるところがまだまだだが、戦略的CSRというよりも環境ビジネスをサステナビリティ戦略と位置づけ、メーカー視点ではなくステークホルダー目線に企業姿勢を切り替えていく動きも出ている。

●リスク情報の一層の開示が必須

欧米企業のサステナビリティ、CSRへの姿勢が日本と大きく異なるのが、視点が社外に向いているということだ。日本では企業理念や行動規範の社内展開に重点が置かれており、社内志向だ。ステークホルダーからの要請や監視がさほど厳しくないために、コミュニケーションが多少悪くても大きな問題は起きてこなかった。

しかし震災を機に、これも日本国内で変わりつつある。東電の原発問題の情報開示が信頼できないもので、同社の信用が全くなくなった。これからは、ステークホルダーそして投資家への説明責任、特にリスク情報の開示を全企業に迫るべきだ。情報開示の面でも、震災の後で方針を大きく変える企業だけが世の中からの支持が得られ、事業継続の面でもサステナブルな企業になるはずだ。