サステナビリティ倶楽部レポート

第2号「曲がり角のマイクロファイナンス」

2011年02月18日

●高利貸しにあえぐ貧しい女性たち

マイクロファイナンスは貧困を救う有効な方法として、世界中に広がっている。これによって、生活がよくなり精神的にも自立した女性は多い。しかし残念ながら、いいことばかりではなくなっている。

昨年インドでマイクロファイナンスの借り手に自殺が相次ぎ、大きな問題になっている。自殺まで至らずとも、返済ができなくて債権回収業者からハラスメントを受けた被害も続出だ。

この問題が起こったアンドプラデシュ州で発表された犠牲者のリストだけで、54人の死亡を含む123件の被害が報告されている。その全リストも公開されている。

借金が返せなくなり、追い詰められての惨事だ。洪水で田畑が流されて生計が立たなくなった者もあれば、娘の嫁入りのために返せる目処がないのに借りた・・・といったケースもある。焼身自殺や辛苦のあまり心不全で急死、といった事例が報道されている。ハラスメントを受けたという報告も多く、実態は報告以上であちこちに蔓延しているだろう。娘にセクハラを迫られて、家のなかに隔離していたところこの子が自殺を図ったというケースもある。

●制度の不備を逆手に取った儲け業者の広がり

こうなると、マイクロファイナンスもただの高利貸しに過ぎなくなる。貧困層を対象にし、弱者を救うという目的なのだから、それを曲解している分サラ金よりもっと悪質だ。

このような事態は、十分に想定されていたことだ。金利が高くても、技能の指導や教育機会などが一緒にもたらされれば、借り手には金銭以外の様々なメリットがあると考えてられてきた。しかし、実際には業者側がロクな指導もせずに一方的に金利を上げている実態が多く、年率30%などは珍しくないようだ。

「金利が高い」といううま味ばかりをみて参入してくることは、容易に想像できる。マイクロファイナンスが急速に拡大する一方で、それに対応すべき制度の整備が間に合っていないのだ。目ざとい業者にとってみれば濡れ手に粟だ。

「きちんと返済計画を立てて借りましょう」というのは、お金の使い方がわかるレベルに有効なのであって、読み書きもできない女性に自己責任を求めるべきではない。貸す側には金融リテラシーの責任まで問われる。

犠牲者リストにはそれぞれの借り先も公開されており、なかには5〜6のマイクロファイナンス機関(MFI)から借りている者もある。多重債務のループに陥っているのだ。マイクロファイナンスといえば、数人のグループをつくってそこで助け合いながらお金を返していくという互助的役割がある。方々から借りているということは、そのような共同体機能がなくなっているということだろう。

MFIが同じ地域で多数乱立していることも伺える。競争があることはサービスの質の向上になるはずだが、整備されてないところでは顧客の争奪だけで商売に走る構図がみえてくる。

こうした一連の問題に対しユヌス氏は懸念を表明しており、今ではマイクロファイナンスを推進する団体などが、その対策に乗り出している。アンドプラデシュ州では、MFIに対し厳しい取り立ての規制を始めている。

●マイクロファイナンスがIPO

一方で、「成功するマイクロファイナンス」のニュースも物議を醸した。MFIの株式公開(IPO)だ。2007年4月にはメキシコのコンパルタモス銀行が世界で最初に、また昨年7月にはインド最大のSKSがIPOを果たした。

マイクロファイナンスは、資本市場のアンチテーゼとして、社会的ミッションを第一に運営される金融のはずだ。それが、拡大するがゆえに、成長するビジネスとして投資家の目にとまったのだ。IPOを後ろから押す投資家側にはジョージソロスなどもおり、MFIはウォール街の投資案件のひとつにまでなった。

MFI側は、マイクロファイナンスがさらに充実したビジネスになるためにはもっと効率的な経営が必要で、そのための資本を市場から調達することは当然の判断だ、という。農村部での回収にはコストがかかるので、高い金利は順当ともいう。たしかにMFIの現場実務は手づくりの業務展開で、IT化など基本機能はまだまだ遅れている。

しかし、株式が公開されれば、利益は投資家にリターンされる。借り手の貧しい女性たちには何もリターンがないどころか、投資家の利潤追求の欲に振り回され搾取がひどくなる構図だ。今回の自殺事件の犠牲者のなかにも、SKSから借りている方たちが大勢おり、言い逃れはできない。

先進国のサブプライムローンと同じ悲惨さを、また繰り返そうというのだろうか。人間は自分で損を被ってみなければ学ばない、とは悲しい生き物だ。

●当初のミッションに戻る

一連の事件でMFIへの批難が相次ぎ、また規制がしかれたこともあり、SKSは融資の金利を大きく下げた。その結果利益が大幅に落ち込み、事件による評判ダメージも合わさって株価も大きく低迷している。出資する側の金融機関も、一斉にMFIへの態度を硬化するようになった。加熱していたMFIが一気に冷え込んでおり、この業界の存続自体が危ぶまれる事態になっているという。何でも行き過ぎれば、それを戻す力学が働く。

ユヌス氏のいうソーシャルビジネスは、収益事業は行うが出た利益を資本へのリターンとするのではなく、社会に再投資するというモデルだ。信頼を回復するには、当初の社会的ミッションにもとづく金融ビジネスを徹底することだ。そのうえで、営利ビジネスが可能であるならば、体制の整備とそこに関わる人たちの意識アップを前提にした別の形態の金融モデルを展開すべきだ。