サステナビリティ倶楽部レポート

[第101号] 金融機関のリスク情報の開示

2020年01月23日

●金融システム自体のリスク
本レポートの第96号で「投資家も情報開示を」と意見を述べた。
https://www.sotech.co.jp/csrreport/1440
今回はこの続編で、金融業の経営リスクに着目して考えてみた。

非財務情報の開示要請の中で、経営リスク情報の開示も制度化が進んでいる。
リスクの話をするならば、当然金融機関も自社の経営リスクに着目すべきだが、融資先や投資先である事業会社のリスク開示の要請ばかりが目につく。

金融業の経営リスクの中でも重大なものは、金融システムの崩壊だろう。
金融危機は過去に何度も起こっている。これからも資本市場が機能不全になる可能性は十分にある。何も理論上または想定の話をしているのではない。実体経済がかなり危うい状況だと考えるからこそいっている。現在株価が高値を更新しており好調なのであまり後退モードを語りたがらないようだが、これが永続するといえない兆候はいくらでもある。弾ける直前のバブルは最大限膨らむものだ。

一つ例を挙げれば、ドイツ銀行の経営不振。昨年からドイツ銀行破綻の可能性がかなり報道されており、株価も10ユーロを切って低迷したままだ。メルケル首相はここが破綻しても救済しない方針だというし、そうなれば一国の話でなく世界経済が一気に冷え込む。当然日本の金融機関も、どれくらい生き延びられるかなのだ。

●自身のリスクを財務評価
これほど明確なリスクが存在するのだから、どんな事態になればどの程度の損害になるかを財務数値で試算できるはずだ。金融機関自身が常に財務で物事を把握する以上、その手本を見せてくれ、ともいいたい。
今後10年、20年先に気温が1.5度(2度)上がった場合の実社会への影響という気候変動による推測(推定)は、かなりの仮説を立てた算定だ。一方でこちらは「株価が2万円(1万円)以下になった場合のシナリオ」といったように、現実的で確実性の高い状況設定のもとに財務評価ができるではないか。

いやホント、資本市場の中にいる金融機関の当事者がわかっていないはずがない。でも誰も本気でそれを表立って口にしない。「だって自分で認めてしまったら、もうタイヘンじゃないの!だからとても言えましぇ〜ん。」ということだから。
そんな皆が分かっていることを机の下にしまって、事業会社にばかりリスク開示を迫り、「で、で、リスクについては私たちのことじゃくなくてあなたのことなんですよ。だから出してよ。」で進めていこうという金融機関のメンタリティに気づいてもいいのではないか。

●ESGも制度に乗っているひとつの要素・・・
金融業者に対してこんな見方をしてしまうきっかけは、ESG投資に対する投資家のスタンスにある。昨年投資家が集まった会合をもつ機会があったが、その参加者のほとんどは「サステナビリティ要素が社会に被害を与えており経済にもその影響がある」ことがわかっても本気でこれを改善しようとまで思っていないことが見えてしまった。金融システムの中にESGという新しい要素が登場してきたので仕組みに乗った「コト」に着目しているだけ、ということ。そもそも投資家は物事を変えようとは思っておらず、制度や仕組みの上に乗っかっていくヒトたちなので、自ら行動する習性にないらしい。気候変動を含めて世の中の課題を深刻に考えてそれをどうにかしようとは一部の独立の投資家だけで、それ以上の広がりがないという感触だった。

株価が順調に上昇している今だからESGが大事と言っているが、市況が暴落した時はそんなことないだろうと思ったものだ。そもそもそこにいた30人ほどの投資家のうち、どのくらいが市場でプレイヤーとして残っていられるのか・・・。

●銀行や保険業も新しい経営リスクが
銀行業のリスクは、超低金利政策だろう。
貸したお金に利子を取るから事業が成り立つのに、それがゼロ、マイナス金利。この先さらに続いたらどうやってビジネスを続けていくのか。こんな事態だから、するが銀行のような不正が起こってしまう。

キャッシュレス決済が広がり、金融業者でなくても金融機能が持てるようになれば、銀行そのものが不要になる。そんなことは夢とは言っていられない事態がもうそこまで来ている。既にインターネット取引やコンビニ支払が浸透して店舗がどんどん整理されている。お金を右から左に動かすだけの業務では価値を産まなくなっているのだ。数えだしたらいくらでもでてくる様々な自身のリスク、もっと開示してくれよと言いたくなるが。

保険業のリスクは、災害リスク。
一昨年に自宅の火災保険の更新通知がきたので保険料を見ると、同じ内容なのに2割くらいアップ。「えっ」と思いよくみると「災害が多発しており、金額を改訂した」という1枚の注意書きが挟まれていた。そうか、これが気候変動の影響かと改めて思ったものだが、私ごとでこのようなことを経験するとずっしり実感する。家を持ってしまった以上保険をかけずにはいられないので言値で更新するしかないが、紙切れ1枚の添付で払わされるなど、保険会社も随分勝手な商売だと思ったものだ。

ただ長期的に見ると、災害が多く保険がますます上昇となれば家を持つこと自体をやめていくので、保険会社がいい商売を続けられるものではない。昨年は台風被害が甚大で、これでまた保険料が上がるな、と思ったものだ。

保険会社はリスクを商売にしており、その要因が経済に及ぼす影響を算定しているのだから気候変動リスクも同様にアプローチしているはず。だからこそ保険料に反映できているので、ならばその情報も開示可能なはずだ。これはせずに、SDGsやCSRに熱心なことばかり報告しても綺麗ごとだけだと思うけどね。

また若者が自動車に乗らなくなっているので、自動車保険事業の縮小も課題だろう。自動車利用については、自動運転やシェアリングなど社会構造を大きくかえるイノベーションが進んでおり、保険業はその中でどう変わっていくのか。価値創造につなげていくアプローチにも関心が向く。

いずれにしても従来型の金融業のディスクロージャーとは異なり、変動する実社会に適応すべくビジネスモデルを革新していく姿勢を示してほしい。

●事業会社と同じように
経済学の専門家でもなく金融業の外にいる人間が僭越な意見を述べてきたが、事業会社に求める情報開示の圧力を考えれば、このような入り口の議論をしてもいいだろう。
金融業のスチュワードシップ報告は徐々に発行するようになったようだし、本業の経営リスクについてももっと取り組む企業が増えてくれればと思う。