サステナビリティ倶楽部レポート

[第100号] 地域型SDGsの実践に向けて

2019年12月13日

 

このレポート、今回で100号になりました。

第1号は2011年2月、その前には「創環レポート」と名付けて類似のレポートを書いてきました。

第1号を読み返してみると、テーマは「成長なき繁栄」。イギリスの経済学者の著書を取り上げたもので、経済成長よりも人間としての繁栄を、という内容です。その時の私のコメントは、

 「資本市場が機能しなくなる日が近く、・・・・・ 非連続な断層のなかで

 人間社会をどう永続していくかにある。・・・・」

資本市場は今も持ちこたえているものの、The end of capitalismへの懸念は深まっていると感じる今日です。

 

  • 地域に出向いてSDGsの実践を考える

SDGsが企業にも広く認識され、各種のプログラムが進んでいる。そこで、各社が会社の様々な関わりを通して地域につながっていく活動を「地域型SDGs」と呼び、具体的に何ができるかを考えてみよう・・・・。

ということで、今回は八ヶ岳南麓にある山梨県北杜市を舞台にして、現地を視察したのちSDGs活動を考えるという1泊プログラムを実施することにした。

 

八ヶ岳を選んだのは、海野自身が20年以上前から別宅を持っており、ここの方達と地域活性に向けたつきあいをしてきたことから。その中でも東京との2拠点活動を続けているFAN LABに現地のコーディネートやプログラム運営をお願いし、こちらから数社の企業が参加して視察&ディスカッションを進めた。

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  • 堆肥を軸にした地域の資源循環

北杜市は県外からの移住者が多く、農業を営む若者も少なくない。中でも有機農法にこだわる農家は、従来の山梨県民よりも移住してきたチャレンジャーばかり。

 

有機農法を続けるには、良質な堆肥を得ることが土作りの上で大事。堆肥を作ることから自分で進めた方がいいのだが、自分で作るまで手が回らないことが実状で、多くは購入しているという。

そこで、地域で発生する枯葉の集積、発酵作業を地域協同で行えれば、農家は各自の農作業に集中しながら堆肥が得られる地域循環のしくみができる。この協同堆肥活動を試験的に行なっているグループをまず訪ねた。現在複数の意欲的な農家らと連携しており、これを今後さらに広げたいという考えだ。

 

ここに企業が関わる方法としては、参加する農家の有機野菜を購入することがまずある。既に関心ある企業が関連のホテルの厨房で、この野菜を買い上げる話が出ている。八ヶ岳近隣であれば地元産野菜の活用を売りにできるが、そうでなくても東京の会社内カフェテリアで食材購入の一部をこちらから行うなどで、地域循環というSDGsの実践につなげられるだろう。

 

会社でなく個人がお野菜のセットを宅配してもらえれば、という話も出た。

この発想は今に始まった事ではなく、今回参加の北杜市の農家さんもこれまでにやってきた経験を持っている。しかし、個別の対応は手間暇かかって、なかなか採算に合わず続かなかったという。一つは、個々の農家が通年で多品種栽培するには手がかかりすぎること。ならば複数の農家がそれぞれを持ち寄ればいいのではと考えるが、そうなると集合して選別や出荷できる作業場が必要になる。有機農家は個人の意欲で続ける方ばかりで場まで提供できず、ここまで協同することが難しいことが実状なのだ。

 

  • 森林の保全: 古くて新しい課題

森林の荒廃は日本全国の問題で、この地域も同じく悩みどころだ。

私たちが訪れたのは、県有林の補助金を受けて保全を続けている森林管理会社。普段行かない山の奥の方まで行き、伐採とその後の整理と植林管理している広大な地域を案内していただいた。

 

現状補助金しか財源がない管理会社からは、「企業がこうした森林からの木材を購入してくれれば・・」と言われる。この今さらながらの状況は、木材メーカーやハウスメーカーのサステナビリティ活動でお馴染みに取り上げるものの、いつも現実的にNGとされてしまう問題だ。

 

バイオマス発電の材料として利用する事例などが見られるが、材の運び出しが課題でまた処理設備の投資も必要になるためどこでもやれるわけではない。

 

今回参加企業とのディスカッションで出された策として、樹木の枝葉部分から抽出される成分を生活剤に活用できないか、という案があった。森の材料が生活用品として商品化できるならば、森林の再生とそこでの雇用創出が事業と結びつく。そこが自然志向の消費者向けに説明でき、SDGsが事業に生かされる好事例になるというストーリーだ。

 

  • 森の中にサテライトオフィスを

事業との関わりばかりでなく、都会の社員が滞在する場として八ヶ岳という環境を活用する事例も視察した。これは廃校になった小学校の教室をリノベーションし、サテライトオフィスとして活用しようという事例だ。

 

広告会社がパイロットとして始めたところで、これからその効果を実証していくという。通勤電車に揺られビル内のオフィスで過ごす都会のワークスタイルに対し、職住接近で山々を眺めながら空気のいい場所で過ごすと仕事の能率も上がる、という仮説に何とか結果を出したい思いだという。

 

参加した皆さんからも、「こういった自然の中で仕事できたらいいな〜」、「雑多な仕事で中断されることもなく、きっと能率上がるだろう。」といったポジティブなコメントが上がってくる。最後には「こんなところにいたら、仕事したくなくなるよね。」という意見が飛び出す。

 

そうですね。私はもう何年も、特に夏の間は断続的にこの地で過ごしている。メール通信や文書作成の仕事ならどこでもできるので、このワークスタイルを大いに実践してきた。

だからこそ、皆さんにも勧めたい、高原のサテライトオフィス。ただ、上記のコメントのようにずっと仕事する気にはならなくなり、外に出て行きたくなるのも事実。それでも、これこそが健康で人間的な働き方だと思いますね。

 

  • サステナブルな働き方はSDGsの一つ

今回は廃校しか案内できなかったが、八ヶ岳圏内には企業向けや個人ワーク向けにシェアオフィス業を始めているところがいくつかある。廃校の校舎では利用団体や設備の改修に制約が多いので、オフィス事業を始めるには民間の施設を借り上げ、買い上げる方が早いだろう。

北杜市ではまだ見られないが、長野県側の富士見町や茅野市などではコワーキングスペースがいくつかあり、試しに活用してはいかがだろうか。

 

いくつか企業が集まれば、利用だけでなく古い施設を活用して実際にサテライトオフィスを運営していくことも考えられる。北杜市には清里や大泉など使われなくなったペンションやプチホテルがいくつもあり、このくらいの規模がオフィスにはちょうどいいのでは。場所も森の中にあり、都会からくる皆さんに癒しと爽快さをもたらしてくれて、皆さん気に入られることは間違いないだろう。

 

人間らしい仕事環境を、という点で働き方改革を進めることもSDGsの一つ。

ならば都会の各拠点だけでなく、思い切って郊外に場所を作ってしまえば。八ヶ岳エリアは東京から特急で2時間。日帰りも可能なので、こうした場であなたらしいワークスタイルを実現することは、もう夢ではないのです。

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CSRを企業戦略として提唱している、海野みづえ(創コンサルティング代表)が発行するメールマガジンです。地球と社会が大きく変動しているなかで、経済や経営をどう持続可能にしていくかを考えレポートしていきます。購読は無料です。配信は月1回を予定しています。