サステナビリティ倶楽部レポート

[第70号] ミャンマーに持続可能な発展を

2017年04月7日

 

●大学とビジネスの両方でネットワーキング
ミャンマーに関わるようになって2年経つ。初めて訪れた時の状況を「第49号 ミャンマー:経済発展下でのガバナンス・ギャップ」で、また現地大学で講座開催を通しての経験を「第50号 途上国の発展のカギ:「教える人」の育成」で紹介した。

その後も講座は”Business and sustainable development”として継続して行い、現在マンダレー地区の3大学で開催、マンダレー大学では客員教授として認めていただいた。さらに3月にはヤンゴン経済大学の社会人コースでも講義する実績ができた。今年度も引き続きこれらの4大学で開講の予定で、内容を組んでいる。

せっかくミャンマーに継続して出かけるのだから、と日本側でミャンマー進出に関心を持っている企業を対象にした「ミャンマーにおけるサステナビリティ経営研究会」を始めた。日経BP環境経営フォーラムの分科会としてこれまで3回行い、延べ30社以上のご参加をいただいたところだ。

そんな経験をもとに、エッセイ「ミャンマーに持続可能な発展を」をまとめた。

 

●成果が上がらなかったスーチー政権1年目
ミャンマーは他の東南アジアと比べて10年以上遅れている、などといわれる。ならば、その遅れを開発資金と産業で支援することで整備し市場を開拓できるだろう、との思いで大勢やってくる。だが来てみると、そんな状況でないことに愕然とする。あれもこれも整っていないミャンマーは確かに「遅れている」のだが、これがインフラ整備の問題ではなく政治的な複雑さに端を発しているため大変難しい。

これを解決してくれるだろう、との期待を受けてスタートしたスーチー政権。ところがその実績は芳しくない。3月末に行われたスーチー氏のスピーチは、この1年間が思ったような成果をもたらせなかった率直な総括となってしまった。

経済成長は、2013年のGDP 8.4%をピークに下がり続け2016年は6.5%程度に留まっている。海外からの投資も新政権下で増加するものと思っていたが、その熱は冷めだしている。2015年まで増加し続けていた海外直接投資額が、2016年は30 %ほど減ってしまった。もっともこれまでの海外投資はシンガポールなどアジアマネーがほとんどなので、ミャンマーだけの問題でなくファンド側の懐事情もあるだろう。実際、先日行った時はヤンゴンのホテルで米ブルームバーグ主催の投資セミナーが開催されていた。アメリカは昨年経済制裁を解除し、ビジネスはこれからのところだ。

 

●農村部に開発型の経済発展は必要か?
しかし、そもそもこうした経済発展を重視して開発を呼び込んでいるのは、ヤンゴンはじめいくつかの都市と経済開発区だけだ。ひとたび街を離れれば、牛で田畑を耕す昔ながらの農耕、竹やヤシの葉でつくられた素朴な住居での生活がまだまだ一般なのだ。工業化を強いられるよりも、自然の恵みを享受していく農業の方が自立した生活ができる。

その農業も、農業機械の利用など効率化しようとすれば資金がかかりそのうえ電力やエネルギーもずっと負担となり、そんな投資をするより今まで通りの循環した生活でいいではないか、となる。経済発展=近代化=工業化と考えるのは、資本主義のレトリックだろう。

工場を立て雇用を作り出すことで地域経済が発展するというが、そもそも工場を作るために彼らの農地をつぶすことが、生活のベースを取り上げてしまうことになる。彼らは工場勤務で賃金が得られそれで生活できるとはいえ、農地を持たずに貨幣経済に組み込まれてしまえばそれに依存するしかない。所得は増えても生活は悪化する矛盾・・・。ミャンマーの農村でそれがいいといえるのか、のどかな田園地帯に足を運んでいるとそんな思いがわき上がってくる。

 

●ミャンマー特有の少数民族問題
不安定な政情を引き起こすその根本は、少数民族とのコンフリクトだ。
伝統的な民族対立に加え、最近の問題はイスラム教少数民族のロヒンギャ対応である。昨年秋にもミャンマー国軍がロヒンギャを弾圧している事態が明るみになったものの、現政権は何も対策を取らないどころか沈黙を続けている。この態度に国際社会が批難の眼を向けている。

ミャンマー人の間では、イスラム教徒への反感が強い。「イスラム教」と聞くだけで、皆一様に嫌な顔をする。仏教徒の国に無秩序に入って荒らすケシカラン奴、といった具合なのだ。インドネシアなど、イスラム教徒のテロが何度も起きている国のようになっては困る、という。NLDの支持基盤がアンチ・ロヒンギャであるため、スーチー氏は彼らへの支援を公にすると支持が離れ足下がぐらつく。何がおきても黙認を決め込む背景は、そんな国民感情にある。民主化をとるのか、国民支持をとるのか・・・。

伝統的な少数民族問題の解決も、なかなか進まない。停戦合意がされたとはいえ、奥地では今も武力衝突が起こっている。
日本企業の現在のビジネス対象はODAによる開発からみばかりで、進出地域はヤンゴンかその周辺地域が9割以上だ。少数民族が存在する地域には、まだ踏み入れるまでいっていない。というより、貧困ということだけでなく現状の政情下ではとても事業などできる状況でないのだ。

都市部の発展だけでなく、ヤンゴン以外の地方や農村、さらに奥地の山間地域をどのように安定させるか、国家のビジョンが必要だ。そこにほとんど手がつかず、迷うままに1年が過ぎたといったところか。

文化的な生活はしたいが、それで経済成長した結果豊かに暮らす基盤が壊れていく、そんなジレンマもみえる。ミャンマーでこそ持続可能な発展をとげてほしいと願いながら、これからも関わっていくつもりだ。

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 【2017年度 サステナビリティ経営ネットワークのご案内】
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今年度も、創コンサルティング主催「サステナビリティ経営ネットワーク」を開催いたします。戦略的CSRとサステナビリティ経営のさらなる展開に焦点をあてた研究会ですので、どうぞご参加ください。

・ 日程とプログラム:
 1. 6月7日(水)   最近のサステナビリティ動向のレビュー
 2.  7月21日(金)  投資家による企業評価
 3.  9月8日(金)   サプライチェーンでの対応
 4.  10月13日(金)  CSR情報の開示とレポーティング
 5.  12月8日(金)  持続可能な開発目標(SDGs)の活用
 6.  2018年1月12日(金) 人権リスク評価
 7.  2月23日(金)   価値創造につなげるサステナビリティ戦略

・ 参加費用:  企業1社あたり200,000円(税込216,000円) 2名様まで参加可

※詳細とお申し込み受付は下記サイトをご参照ください。
https://www.sotech.co.jp/csrnet2016

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CSRを企業戦略として提唱している、海野みづえ(創コンサルティング代表)が発行するメールマガジンです。地球と社会が大きく変動しているなかで、経済や経営をどう持続可能にしていくかを考えレポートしていきます。購読は無料です。配信は月1回を予定しています。