サステナビリティ倶楽部レポート

[第71号] 自分の人生を充実させる働き方改革を

2017年05月19日

 

●働き方改革の本気度は?
政府が旗を振って進めている働き方改革。そのかけ声に応じて産業界も取り組みを進めているが、その本気度は各社まちまちだ。

好事例のトップは、ヤマトホールディングス。
荷物総量の抑制を実施し、配達員への労働環境の改善を第一にすることを明言。ここまで状態を放置していた経営幹部を処分するなど、事態を重くみて真剣に対応している。会社内のブラック部分を経営陣は認めたがらないものだが、そこを素直に直視して抜本的に対策する姿勢が評価できる。

これに対して自殺者まで出した電通。メディアが取り上げ社会で批判が殺到してようやく対策をうつという状況だ。外からの要請に対して後追いで、「こんな労働状況どこでもやっているし、仕方ないじゃないか」という姿勢が見え見えで、自ら社内を改革しようとは伺えない。

労務状況の改善は、当面のコスト負担の方が大きくすぐに目に見える業績に結びつかない。また1社だけがやろうといっても、競争市場のなかで負けポジションになるだけで、全体が変わらなくては効果がない。

そんなことをいって対応を見送っていくうちに、社会全体が弱っていく。このままいったらどこかで破綻するということを前提に、今コスト負担になってもどこかで手をうたなければならない。ヤマトホールディングスの対応は労組からの要請がきかっけだが、受動的だということでなく、将来を見据えて現在の低価格多量受注モデルが持続可能でないことを認めたことだ。現状容認型の「ゆでガエル」状況は避けたい。

●個人の働き方を優先するドイツ
もっとも会社側の取り組みをどうこう言う前に、皆さん一人一人個人が持続可能な働き方を意識して、自分のなかで達成していくことの方が重要だ。

休日の取得が格段に多いドイツは、生産性が高くてEUを牽引する経済力を誇りよく日本との比較モデルになる国だ。
ドイツの保険会社に勤める私の日本の友人は、普通にサラリーマンをしながらフリーランスのジャーナリストとして日本向けにヨーロッパ時事問題の報道を続けている。彼が25年このスタイルでやっていけるのも、ドイツ企業の労働環境の良さゆえだ。有給休暇は年6週間で完全消化。日々の勤務も残業などほとんどないので執筆に専念する時間がたっぷり取れ、著書は20冊を超える。日欧での講演活動も積極的で、二足のわらじが十分に可能になる。

彼の働き方が特殊ということではない。ドイツ在住の前は日本のマスコミ界におり両者の比較もできる彼は、「日本の労働環境では、創造的な発想どころか人間らしい生活すらできない」といっている。身を粉にして働いてもドイツの生産性とさほど変わらないニッポンはとても尋常でなく、彼はもう日本の組織には戻りたくないという。

●なりたい自分の将来像を常にイメージする
こんな状況に対して、若者は静かに企業を離れ出している。
大卒の新入社員のうち、3年で3割が、また30歳までに半分が辞めてしまうそうだ。辞めていく彼らが別の会社で職を探す時、学生時代の就活とは違った視点で働き方を考え直す機会になる。

「転職に成功する若者とは、なりたい自分の将来像が明確で、それを目指そうという意欲をもっている人」
リクルートのアドバイザーがこういっていた。目先の条件に振り回されるのでなく、まず自分の将来を描きそれに向けて何をやっていくか、そのデザインプロセスを意識してまず今の職を選べという。

●「サステナビリティ」が生涯のテーマ
我が身を顧みると、「こんなふうになりたい」の連続だった。
21年前、35歳で独立した時に描いていたビジョンは、「産業と社会の接点を企業の立場から取り組みたい」、「組織や体制の枠組みにとらわれずに本質を追求し、それがどれだけ社会にインパクトを持たせられるか、チャレンジしたい」というものだった。会社員時代に2回転職しているが、その間も将来どんな自分でありたいかのイメージがあって、そこに向けて職を変えていった。その蓄積があったため、自然に自分の背中を押す気持ちで独立を決められたのだろう。ここでやらなかったら一生後悔するような思いが強い一方で、どうしてもうまくいかなかったら組織人に戻ればいい、という逃げ道をもっていたところもある。

創コンサルティングを設立してからの20年。いくつかのステージのなかそれぞれでありたい自分のイメージがあり、その実現に向けたプロセスの連続だった。私の場合、「サステナビリティ」が仕事のテーマであるだけでなく、生き方そのものを表している。

独立のノウハウは?と聞かれても、私には何もいい答えを用意できない。要領よく成功するコツなんぞないから。
ただ、その時々の自分の働き方への想いや何ができたかできなかったかははっきり言える。試行錯誤で大変無駄が多いプロセスだったが、今ではかなり柔軟なワークスタイル(時間やお金の使い方とそのアウトカム)ができたな、と思えるようになってきた。

組織が働き方を指示するのでなく、自分の人生のなかででどんな働き方をするのか、皆さんもそこに重点をおいていただきたい。