サステナビリティ倶楽部レポート

第25号「Emerging Asia Now!」

2013年04月11日

●新興アジアのサイトをスタート

ダイナミックに発展する新興アジア市場。
その新興市場では、自社製品を売ることばかりを考えるのではなく、地域社会にとってプラスになるビジネスをすべきだ。こうした地域では、ビジネスアプローチと開発アプローチが同時に進行しているので、以下のように両者を統合し事業のなかにサステナビリティ要素を組み込む「サステナブル・ビジネス」がポイントになる。
 ・地域環境保全に配慮
 ・地域コミュニティにベネフィットを提供し、自立した経済をもたらす
 ・現地人材の能力向上をもたらす
つまりCSRの要素そのものなのだが、CSRと言ってしまうとビジネスとは切り分けて扱われがちなので、アングルを変えて事業側から見たアプローチだ。

サステナブル・ビジネスが強調されるのは、アジア諸国を投資対象として経済オンリーの視点で見るのではなく、変革のなかで醸成される市民意識をサポートし、そこに自立する経済をどうつくるか、という社会経済視点が重要になっている背景が大きい。

それにはまず現地を知ることが大事ということで、アジアの「今」の実状を現地から届けるサイト”Emerging Asia Now!”をスタートした。
http://asianow.sotech.co.jp/

アジアといっても広く、また日本との歴史も長い。これまで関係が強いASEAN諸国のさらなる成長に乗る動きと、新たなアジア諸国のこれからの成長に期待する動きがある。サイトは後者、バングラデシュから始めている。現地で起業して日本企業との橋渡しにも取り組むレポーターが、ビジネスの眼を通した政治動向や生活者・コミュニティの状況を伝えている。
http://asianow.sotech.co.jp/bangladesh/

●ミドル層でのサステナビリティ戦略

バングラデシュというとすぐにBOPビジネスを想像する人が多いが、参入したこともない新しい市場でいきなり最貧層をターゲットにするなぞ、まったく現実的でない。しかもBOPで成功するのは、衛生関係や食料関係など生存にかかわる分野で、あまり日本のグローバル企業が得意とする業種ではない。この事例でユニリーバのインドの例がよくあがるが、彼らはトップ~ミドルの一般消費市場をがっちり押さえており、そこで上がった潤沢な利益をもとにボトム層を展開してきたのだ。イギリスの植民地だった同地では、少し前まで同社が独占状態でブランドも浸透している。

新興アジアで市場展開を考えるならば、中間層ボリュームゾーンのマーケティング戦略に重点を置き、そこにBOPもつなげて布石を打った方がいい。トップ層も重要な顧客だが、母数が限られておりその後の広がりが少ないので、ここはフラッグシップとして位置付け、主対象をミドルクラスに。

ミドルといっても発展途上の地域なので全体の所得が低く、日本からしてみればボトム層なのだ。先進国と同じことができるわけではない。販売する製品や販売の仕方を現地流につくり直すことになり、そこでサステナビリティの観点でみることが役立つ。そこには、貧しい人たちを助けなくては・・という思いをもちつつも、慈善行為とは違ったこれからの新興市場でのビジネスの機会が多いに隠れている。

バングラデシュでも韓国や中国またアジア諸国の企業が次々参入している。こうした企業には、ともかく売れるものを持っていって売り抜ければいい・・といった短期的な思惑が見え隠れする。日本企業は価格面で太刀打ちできないのだから、サステナブル・ビジネスのコンセプトをもつことで、事業としても成功する戦略を考えないといけない。それにはサステナブルであることをどうアピールするか、そこを意識的に伝える努力をしないと安い競合品と見分けがつかず、わかってもらえない。

●現地のプロ人材との信頼構築

そこで、現地でいかに有能な人的ネットワークをもつかが成功のカギになってくる。
どれだけ日本で仮説をたて準備しても、新興国ビジネスを立ち上げるのに最も重要なことは現地で良いパートナーを見つけられるかにつきる。

“Bangladesh Now!”のパートナーKite Bangladeshは、教育や人材育成を焦点にあてた事業を展開している。バングラデシュの教育分野の専門家やNGO界の有能な人材を発掘し、その方たちとの連携のもとに活動を展開中だ。まずこのようなコアになる人材と信頼関係をつくることで、彼らのもつネットワークとのコラボができる。こうした方々はバングラデシュに留まらず国際NGOや開発機関などに多彩なつながりをもっていて、日本人よりはるかにグローバルマインドで活躍しているのだ。

もちろん教育プログラムを事業にのせることはそうたやすいことではない。そこで、プロジェクト資金の獲得策を考える。
たとえば、欧米の多国籍企業はNGOをパートナーとして現地の展開をすることが多いため、そうしたNGOとコラボすることがよくある。著名なNGOは、資金は豊富だが専門家が足りず、外部の機関にプロジェクト運営を委託することも多い。各分野の専門性をもち地域の主要機関と組むことで、日本では思いつかない方法がいろいろとあることが興味深い。

また、バングラデシュに集まってくる公的な開発援助からプロジェクトを受注することも別の策だ。日本人の発想では、JICA等日本の資金しか考えないと思うが、現地に根を下ろし世界中のリソースを活用する例をよく聞く。むしろ現地では日本企業や日本人のリソースを非常に求めており、そこに機会はたくさんある。日本のプレゼンスがなく、接点がないだけなのだ。

●若い世代の意欲に期待!後押しします

さて、日本の若い世代でソーシャル意識、特に途上国支援マインドが高くなっているようだ。企業の選択についても、給料の高さよりも社会貢献の度合いを重視する学生が増えていると聞く。ソーシャルビジネスや社会起業といった、社会課題の解決に興味をもつ若者が多くなり、事業型NPOや社会事業の会社設立が活発だ。有名大学を卒業した意欲ある人材ほど、この道にミリョクを感じるらしい。会社勤めをしながら夜や週末の時間にこうした活動にいそしみ、プロボノで関わる人も多い。そして戦略系コンサルティング会社は、そういった若手社会起業家に人気があるらしく、さながら登竜門のようだ。私がいた90年代初期には考えられなかったことだ。

やっとそんな時代になったか・・と期待をもってこの状況をみている。
会社に就職するよりも自分の力で始めてみたい、それも社会につながるビジネスの関わりで・・・、とは私の若いころそのものだから。そのころはバブル全盛の時代で、社会にいいことを考える雰囲気なんぞなかったので、私の興味はいつも周りとズレていた。だから96年に独立した時も、いっしょにやろうという同志などなく、でも自分で納得することをやりたいから一人で始めることにしたのだった。

環境とか社会というと、「カンキョー?それがビジネスとどう関わるわけ?」という怪訝な顔つきをされるか(90年始め)、「環境!それでひと儲けできそうじゃないか」と予算を引っ張り出すネタにするか(90年中頃~)で、どうも真面目に社会と向き合う様子がなかった。今の時代は社会問題だらけで先行き不安な分、お金よりも世の中にいいことをしていこうという意識が働き方に出ているのだろう。多いに若者に期待したい。私も20年後に生まれていたら、ソーシャルビジネスの渦にはまっていただろう。今のワタシはもう適正年齢ではないが・・。

余談だが、高校生だった頃学生運動を題材にした小説を読んで、ひどく揺さぶられた経験がある。10年早く生まれていたら、確実に私も学生運動をしていただろう・・・。子供の時ニュースで見た安田講堂前のデモの様子が思い出され、それに自分が重なった。

10年前でもなく20年後でもない、この年齢で今のこの時代を日本人として生きる。これまで積んできたキャリアは、これからの激動の時代、世界をサステナブルにするための行動の土台なのだと思っている。

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*****サステナビリティ経営ネットワークのご案内*****
創コンサルティングでは、企業のCSR担当者が集う「サステナビリティ経営ネットワーク」を本年度も引き続き開催します。今回はアドバイザーをお迎えし、ディスカッションをより充実させたプログラムで展開いたします。
皆様のご参加をお待ち申し上げております。

<プログラム> 全7回シリーズ[初回 5月31日(金)]
 ・第1回 最近のサステナビリティ動向のレビュー
 ・第2回 ビジネスと人権
 ・第3回 サプライチェーンでのCSR
 ・第4回 CSR情報の開示とレポーティング
 ・第5回 紛争鉱物への対応
 ・第6回 アジア新興国でのサステナビリティ
 ・第7回 国内での戦略的コミュニティ活動
<アドバイザー>
 冨田 秀実 氏
 ソニー株式会社にてCSR部発足当初から統括部長を約10年務める。2013年2月より、 ロイド・レジスター・クオリティ・アシュアランス・リミテッド(LRQA)ジャパンに所属。
<参加費用>
 1社あたり21万円(2名まで参加可、税込み)

※お申込みと詳細> https://www.sotech.co.jp/info/578