サステナビリティ倶楽部レポート

第17号「ダイバーシティ経営大賞2012」

2012年07月5日

●グローバルでのダイバーシティが必須

今年で5回目となったダイバーシティ経営大賞の表彰が先ごろ行われた。http://www.toyokeizai.net/corp/award/diversity/2012/diversity1.php

今回は外資系、金融機関、メーカーといった様々な種別が、バランスよく受賞にいたった。

大賞の第一生命保険は、ダイナミックにダイバーシティを展開しているというより、保険業界のなかで女性社員の育成を地道に進めており、社員の意識向上に取り組んでいることが決め手だった。なかでもKPIを設定するなどで「見える化」を進め、その効果が持続している。

一昨年ころから金融機関の応募が増えてきたが、横並び的に社内体制を整備する傾向が強かった。それも一つのステップなので否定はしないが、どこかにその会社らしさが出ることが評価の視点でもある。

これから強調したいのは、「グローバル化」のダイバーシティ。以前から言い続けており、審査員としてのコメントを上記サイトにもアップしたので、そこを引用したい。


昨今ダイバーシティのなかで最も重要な要素は、グローバル化だ。世界各国の人材を積極的に経営に取り入れ、日本人もそのなかの一部としてチームをつくっていくぐらいの考えが必要だ。現状で多くが取り組んでいる「グローバル人材の育成」は、世界で活躍するための日本人育成が中心で、これはダイバーシティ経営の第一歩でしかない。世界中の人材に入ってもらうということは、日本人の側で外国人を受け入れる適応力をもつことなのだ。人材だけの話ではなく、経営そのものグローバル化だ。

今回のダイバーシティ大賞においても、グローバルに重点を置き経営を変えていこうという企業が増えてきた。ダイキン工業はその意欲と実践がみられる企業として従業員多様性部門賞を受賞した。その他にもグローバル化へのチャレンジが課題にあがってきたものの、多くの会社は「ダイバーシティ=社内の人事体制や職場環境の整備」にとどまるようだ。

グローバル競争のなかで、海外を含め様々な人材に経営を担ってもらうという経営陣の発想転換をさらに求めたい。

応募の際にも、人材のグローバル・ダイバーシティをもっと意識してもらいたいと思っている。社内の公用語を英語とした楽天や、新興国向けの人材採用に重点を置くユニクロなども、この大賞に応募してもらいたい。グローバル化については定まったモデルがあるわけではなく、各社それぞれ手探りしながら進め、ぶつかりながら軌道修正していくのが今のやり方だ。

●金太郎から桃太郎へ

表彰式では、特別奨励賞を受賞したアサヒビールの話がおもしろかった。「金太郎から桃太郎へ」とダイバーシティを桃太郎にたとえたところがわかりやすい。どこを切っても同じの金太郎ではなく、キジと犬と猿といった違った種類が集まってチームでやっていくのがこれからの経営だ、と説明していた。

これまで金太郎飴の型にはめ込むことで、効率最優先でやってきた経営。とんがった社員や話がうまく通じない社員の個性をどう活かすか、言葉だけでなく実践で示してもらいたい。「奨励賞」とは、「その方向でいいですから、さらに頑張ってください」という背中を押す賞。是非来年は部門賞、さらに大賞を目指して桃太郎経営を進めてほしい。

ところで、過去に表彰された企業、特に大賞に輝いた企業は、その後どうなっているか気になっている。この表彰は応募制なので、自らエントリーしてこなければ審査にあげられない。これまで大賞を受賞した企業も5社あるのだから、「大賞受賞後のその後・・・」ということでどんな進展があるかを追跡することも必要なのではと思う。

●育児から介護へ

基調講演では、渥美由喜氏(東レ経営研究所)のお話が非常に身につまされるものだった。審査員としてこれまで一緒にこの賞に関わってきたダイバーシティ経営のベテランだ。現場主義で、理論よりも実務・実践の経験をもとにしたコツの話は、「なるほど・・」と思うことの連続だった。

そんななか、ご自身の実体験でもある育児、介護の大変さをもとに、これからの会社は介護の難問を受け入れながら経営していかなければならない、というメッセージが切迫していた。ワークライフバランス(WLB)というと、出産、育児をどうこなすかという面で女性の働きやすさの話が中心だった。しかしこれからの高齢化社会、自分の両親の介護をどうするか、その問題は若手の女性ではなく、中高年でビジネスの一線にいる男性社員に降りかかってくることなのだ。頭でわかっていても、親の介護の現実は突然やってくる。家内に任せておけないことも多い現状だ。いざ来てしまうと、この先どう対応したらいいのか、どれくらい続くかが見えなくて途方に暮れる・・。

渥美氏は、これは必ず誰にでも起こるつまりどの会社でも直面することで、会社はその事態を今から想定し、体制をとることが急務だという。親の要介護のことは会社では話したがらず、自分や身内で何とかしようとしてしまう。しかし個人の問題ではなく、会社にとって重大なリスク問題で管理すべきことだ。目をつぶっていると、会社の屋台骨を突然失うことになる。

対策としては、介護を想定したフレックス勤務やチーム編成を導入し、「当然起こり得る仕組み」つくりをすることだ。家族の好意や善意ばかりに頼っていけない現実を認め、ビジネスを進める手順で個人の介護援助を組み込むことは可能だという。

見たくない現実、起こってほしくない可能性を「想定外」として片づけてしまうとどうなってしまうか、皆わかっている。自分のためにも、「今までの働き方」を変えることがダイバーシティ経営だ。