サステナビリティ倶楽部レポート

 [第97号] 海外サプライチェーンの取り組みはグローバルチームで

2019年09月13日

 

  • 無視できない途上国のサプライチェーン問題

海外含めたサプライチェーンの先、しかも労働や人権に関わるトピックにはまだ日本では認識が低い。サプライヤーの問題まで企業に責任を迫る動きが始まったところといった状況で、なかなかその重要性に実感がわかないようだ。

 

だがこれまで何度もこの話をしているように、欧米ではそこがかなり強い動きになっている。そんな中でもグローバルで先端を行く日本企業に本格的な動きが見られるようになったので、その代表であるブリヂストンとJTから話を聞いた。

 

業種は異なるが、どちらも天然資源を主原料としていることが共通する。ブリヂストンは天然ゴム、JTは葉たばこの生産でアフリカ等の途上国に大きく関わる。そこでは日本本社で立案して各地域に落とすのではなく、グローバルチームのもとこの課題の重要さを実感する欧米スタッフ主導で向き合っている。

 

  • 多数の家族経営が中心の天然ゴム生産者

天然ゴム生産への指摘は、2015年頃からNGOからのバッシングが強くなってきたという。木材業やパーム油プランテーションによる森林破壊問題に続く動きとして展開。厄介なのは、大規模業者が少なく、世界で600万世帯が営むという家族経営の零細業者が全体の85%を占めるため、末端現場を広範囲にカバーすることが難しい。

 

ここでも取り組みのきっかけはNGOの動きだ。とはいえ、サステナビリティ担当者がその必要性を感じていても、日本の経営層に響かないことが続いていたという。そこをグローバル経営の重要課題と説明し、欧米スタッフと組んで詰めてきた。方針策定から一次サプライヤーへの浸透や第三者評価、技術開発、農家の支援を進めているところだ。

 

さらに注目する点は、自社の努力だけでは解決できないとして、業界を通じた天然ゴムのプラットフォームGPSNR(Global Platform for Sustainable Natural Rubber)の設立に積極的に動いたことだ。これはタイヤメーカーや自動車メーカーのほかWWFなどのNGOを含むマルチステークホルダーの連携で、今年の3月からスタートしている。

 

同じ問題を抱える者同士が集まる場を作ることが、市民社会からも評価される。日本企業にはそこがあまり理解されず、できあがった仕組みに時遅れてしぶしぶ乗るばかりが実情だ。ブリヂストンでは各国の経営トップがこの課題のビジネス上の重要性を理解、やるならばリーダーとして積極的に動こうという姿勢に舵をきった。

 

欧米スタッフの連携は、NGOとの対応でも重要な役割を果たしている。

問題を指摘してくるNGOを無視してはいけないとわかるものの、日本的な対応ではなかなかいいコミュニケーションができないことが現状だ。日本的というのは、例えば「問題を認識し体制を作って誠意取り組んでいます」など丁寧で真摯にみえる返答をしても、本気で対処する意図が伝わってこないところがある。なので、NGO側は何度もコミュニケーションを繰り返してくる。こんなやりとりには、「はっきりしろ」とイライラしている様子が伺えてくる。

 

コミュニケーションのポイントがずれていることに原因もあるのだが、日本人ではそれがわからないのでだんだん遠ざける結果にもなる。同社ではコミュニケーションチームをグローバル化しており、このような対応は日本人でなくネイティブで感覚がわかる欧米のチームに任せているという。ここが日本本社主導ではやりきれない成功ポイントだろう。

 

また一対一の対応では泥沼化しやすいので、GPSNRのようなプラットフォームをつくり、マルチステークホルダーの場で話し合うという工夫もあるという。ともかく自社内で対応しなければ、という発想に取り込まれないこと。SDGsの目標17のパートナーシップには、このように外部で協議することが多分に盛られている。グローバルメンバーの活用を皆さんも参考にしていただきたい。

 

  • 児童労働撲滅運動は地域全体を対象

たばこの場合は業界内で連携が難しく、各社それぞれが対応しているそうだ。JTグループ内も自社内での対応だが、日本でなく欧州のJTIが率先して進めている点が特徴だ。サステナビリティ・レポートも英語版を先に作成し、その後日本語訳をしている。たばこは喫煙について物議を醸す産業なので、その点で社会からの批判的な目に晒されてきたことが生産の問題にも広がったのだろう。

 

今回は、アフリカを中心とする生産現場での児童労働撲滅プログラムARISE(Achieving Reduction of Child Labor in Support of Education)について話していただいた。農家の労働問題はもちろんなのだが、子供を働かせないだけでは問題解決にならない。そこで地域の子供たちが教育を受けられるように、家族まで含めたコミュニティ全体の支援を重視した活動だ。草の根の支援活動だけでなく、農家の所得向上や行政への法的な政策提言にまで取り組んでいる。一社ではできない、とか他国の制度に口を出すべきでない、などといった狭い了見を超えたものだ。

 

そしてこの活動は、慈善活動ではなく「事業活動として行う」と言い切る。

確かに社会性を持つ活動であるが、これはビジネスを永続する上で必要な取り組みだということだ。これも日本主導でなくJTIのグローバルチームならではの発想だろう。それくらい、サステナビリティはこの業界の事業成功のための重要な要素として統合されているといっていい。

 

さらに投資対効果SROI(Social Return on Investment)の評価も行なっている。指標の取り方など、試みが多いようだが、投資家を対象とした評価というより自社内での成果確認が主目的だという。社会性の分かりにくさを指標化する試みには大いに賛成だ。ROIは投資用語で金額の指標であるが、社内向けならばここは財務数値だけでなく何らかの社会的な課題を数値化してもいいのではと思う。

 

  • 問題を共有し協同して取り組む

グローバル市場で経営していくには、日本で認識が低いなどといってはいられない。もはや見て見ぬふりをできないことが、この2社の事例でわかっていただければと思う。そして、グローバルチームをうまく組成することがポイントだということも。

 

実際、国内外のNGOや市民社会から現地サプライヤーの問題を指摘される事例をいくつも聞いている。それがイマイチな対応と思われているようで、そこは欧米流に適応できるコミュニケーションスキルがよくわからずミスマッチになるのでは、と今回の話を聞いて思えてきた。グローバルチームで彼らのスキルを大いに取り込むことも重要。

 

さらに、個社だけで頑張るには限界がある。むしろそんなに抱え込まず、他社、他団体と共有、協同して一緒に取り組んで手を広げることを学んでいただきたい。