サステナビリティ倶楽部レポート

[第96号] 投資家も情報開示を

2019年08月8日

 

  • 投資家と企業の認識ギャップ

非財務情報を開示する要請が強まっており、サステナビリティ報告や統合報告での開示だけでなく有価証券報告書での法定開示にまで広がっている。特に資本市場向けの情報開示が進んでおり、企業側は次々と対応を迫られている。

 

投資コミュニティの方は、各々の投資家でコンセプトや投資スタイルが異なるため、活用する情報の種類や分析手法も異なってくるものだ。それを知るためにも、企業ばかりでなく機関投資家側もきちんと情報を開示し、評価する企業やアセットオーナーにやっていることを示すべきではないか。

 

これが今回のテーマだ。

企業には様々な業種があり、同じ業種であってもそれぞれ事業の種類や戦略が異なって当然だ。同じように機関投資家にも諸々の分類や特徴があるのだが、それが企業にはよくわからない。IR担当者であっても、業績発表の際に参加してくる投資家くらいしか接点がない企業も多く、これが投資家のすべてなのかと思ってしまう。

 

だが投資家と話してみれば、各種の部門があり機能は異なり、各社それぞれで特徴を持った投資行動をしている。短期投資vs長期投資、セルサイドvsバイサイド、パッシブ運用vsアクティブ運用・・・

実際に投資する運用機関とESG評価機関は独立しているが、そこの関係をよく理解していないことも多い。「インベストメントチェーン」といわれても、投資業界にはどんなプレーヤーがいてそれらがどう関係しあっているのか、も???

 

こんなことは投資家にとっては当たり前のことなので、いつも使う「業界用語」を所与のものとして対企業にもそのまま使う。しかし両者に基本的な認識ギャップがあるので、企業には背景がわからないまま伝わらないままで、意思疎通が改善しない。このため、企業側が開示する情報も投資家目線になりづらくなる結果をまねく。

 

  • 投資家は企業から情報を得るだけでなく・・

そこでこうした投資家と企業のミスマッチを改善する第一歩として、企業に情報開示を要請するばかりでなく投資家側も情報開示することが有効だろう。

 

先月行った弊社の研究会では、りそな銀行と三井住友DSアセットマネジメントの2社からそれぞれの投資方針や企業評価の手法など伺った。その中で、りそな銀行が発行している「Stewardship Report」が興味を引いた。これは企業の統合報告に相当するもので、自社投資の位置づけからエンゲージメントの方針、その具体的な取り組みの報告を整理しているものだ。同社が行っている投資の全体像がわかるとともに、資産を預かり運用する側の責任感が伝わってくる。

 

作成を担当した同社の松原さんに伺ったところ、

「投資家も情報を開示すべきとのこと、その通りでやってみました。実際に作ってみて、いやもう大変な作業。企業の皆さんがいかに苦労しているかわかりました。」

というご感想だった。

 

ESG投資が広がったきっかけはESGインデックスの採用からだが、これは企業が開示する情報を使ってレーティングすることが基本だ。これら数値中心の評価では限界があるからこそ、様々な独自の非財務情報を投資判断に活用することが求められているもので、そのためにエンゲージメントが推奨されている。対話を有効に進めるためにも、企業に聞くだけでなくて投資家自身の姿勢を示すことで、それにはこうした報告が欠かせない。投資家にも様々な類型があることが企業もわかり、自社の方針と合う投資家を判断することができるというものだ。

 

さらに言えば、エンゲージメントが投資のパフォーマンスにどのように影響したかの成果まで報告していただきたいものだ。企業への投資家からのコメントとして「ESG要因が事業の業績や企業価値にどう関連づけられるか報告してほしい」ということをよく聞くが、それをそのまま投資家にも問いたい。質問していることがいかに難しいかがわかるだろう。あなたにとっても同じ問題ですよ!

 

  • 投資家個人の意識喚起に

報告書作成のもう一つの効果として、社内での意識喚起がある。

まずはトップ自らが倫理観と理念を持って実行することを示す。その元に責任投資の考えを特別の部門だけでなく、各担当で共有することだ。また報告書にまとめ社外に公表するとなると、どんな情報をどこまで開示するか、それをどんなスタイルで、という議論が必要になる。一般企業よりも投資家の方が個人ベース思考が強そうなので、組織としての全体の取り組み姿勢をしっかりしておくことは必須だ。社内での報告書作成プロセスは、それを強化する効果にもなるだろう。

 

こんなことを研究会で話したところ、企業メンバーも多いにうなずいており大賛成だった。企業からももっと声をあげたらいい。そうすることで、企業側も情報開示や対話・面談への姿勢が変わってくるはずだ。