サステナビリティ倶楽部レポート

第39号 「『攻めか守りか』なのか」

2014年06月26日

 

●ビジネスは戦場ではなくコミュニティが相手

私はいつもCSRの取り組みには「機会とリスク」の両面が必要といっている。経営へのプラスの影響(機会)かマイナスの影響(リスク)かということで、前者を戦略的CSR後者を基本的CSRと呼んでいることも、皆さんご存じだろう。

 

ところがこの二面性の話をすると、「あぁ、つまり攻めと守りのCSRということですね。」と簡単に言われることが多い。先日もある専門紙でインタビューの依頼があり、ひと通り話した後で記者の書いた記事がその言葉使いで整理されていた。

 

私は以前からこの表現には違和感があり、あえて使いたくない。

多くの方はこの記者のように、どっちもプラス/マイナス思考で同じことじゃないか、と思うのかもしれない。一般のビジネス用語としても通ずる方がわかりやすいからこれでいいだろう、と。

 

攻めるとか守るかとかいう発想は、ビジネスを戦場としてとらえる見方であって、マーケットシェア獲得の市場競争に走ることから生まれている。CSRはそうした利潤追求の姿勢を問い直し、「今までの経営」から変化の視点を見出す切り口だ。経営者にわかりやすいから、という理由で安易にビジネス用語を使っていては、CSRの基本を理解していないことになる。

 

一体誰を攻めようというのだろうか。攻めるか守るかは、勝つか負けるかの考えにつながる。会社が勝つことが目的なのだろうか。

CSRが目指すサステナブルな社会は、そういった敵対関係ではなく両者がいい関係でどちらにも益になるWin-Winが実現できることではないか。「競争(competition)ではなく共創(CSV)」だ。

 

●国際的にCSRをみていくべき

英語をみても、攻めのCSRにあたる言葉は見当たらないので、Non Japanese にどうやって説明するのか教えてほしい。あるのは戦略か責任か、プラスの影響かマイナスの影響か、なのだ。

 

このようにいとも簡単に戦争用語を使うことに、懸念を持っている。できれば「戦略」も使いたくないくらいだが、これは事業の具体的方向を示すもの、ということで「計画」と同じくらいの意味合いで使わせてもらう。

 

平和な国日本にいる私たちは、戦争や紛争はどこか遠くの国で起こっていることで、日常生活や事業活動から離れていて実感が薄い。しかしビジネスはグローバル化し、サプライチェーンを通じて世界中の末端にまで通じている。問題の起きやすい(起きている)場所での操業に関係していることに気づかずに経営することは、かなり危険になっているのだ。

 

それでもなお、攻めていこうというのだろうか。あるいは自分たちを守るためには、ある程度の手段はやむを得ず認めていくのだろうか。

平時ならば当然NOである事態も、世界情勢に巻き込まれ有事に直面する事態が増えている。こうしたなかでは、企業自らが不安定な社会情勢や統治が不十分な政治体制まで含めて、自主判断することに迫られる。

 

CSRはステークホルダーとの信頼を構築することだ。それには攻めも守りもないことをもう一度いいたい。「日本のなかで、日本人相手に、日本人が経営する感覚」でグローバル経営を捉えてはいけない。有事の場合でも、NOならばそれを実行することだ。

 

●競争ではなく共創

今の日本は世界の大きな紛争地域のひとつにいるのに、日本にいてその実感が湧かない。

自国を守るために戦う、ということは筋が通っているようだが、世界からはそう見られない。日本の領土の周りを守るものという触れ込みが、世界の紛争に自ら足を進めていく行為につながっているのだ。日本は他国に攻めこむ軍事国家になりたがっている、と映っている。

 

どんな場合でも、競争(ぶつかる)ではなく、共創(平和的解決)の姿勢をもつことではないか。企業を取り巻くステークホルダーとの関係も、国家間の政治的拮抗も。