サステナビリティ倶楽部レポート

第27号「SRI/ESG投資の局面」

2013年07月10日

●広がらないSRI投信

社会的責任投資(SRI)は今に始まったことではなく、これまで私もいろいろ関わって
きた。しかし最初の導入からだいぶ時間がたっているものの、日本ではあまり広がる
様子がない。このままだとどうも「SRIはしょせん社会派の人間たちが投資をかじった
程度のもので無力だ・・・」で終わってしまいそうだ。

SRIといえば社会性を考慮した株式投資のことだが、株式市況がこうも不安定だと何が
適正な評価なのか疑問が深まる。そもそも企業の価値を株価という唯一の指標で示す
ことが無理なのだ。

複数の事業を展開するコングロマリット企業であれば、それぞれで事業の評価が異なって
当然だ。また株価は様々なマクロ経済指標と連動して決まるので、大規模な財政・
金融政策で経済要因が大きく変動する今日は、この影響の方が強い。株価が本当に
企業を評価した価値ならば、短い期間に大幅に上下変動するわけがない。株価は株式
取引のための便宜上の値段でしかないことは、誰の目にも明らかだ。

個別企業の株価と環境・社会への取り組みの相関性を見出し、これによってSRIの有効性
を主張しようという研究があるが、そんなわけでこの論法は説得力がないと思っている。

●アクティビズム投資こそ変える力

ではSRIには意味がないのだろうか。
株式市場を信用していないワタシではあるが、SRIの意義がないとはいっていない。
その効果がみられるのは、ポジティブ評価のSRI投資ではなくて、ネガティブ評価の
際に明確になると思う。日本のSRI投信は、「社会にいいことをやっている企業を選択
評価すれば、それが優良銘柄になる」というポジティブ評価だが、これでSRIインデッ
クスをつくってもあまり意味がない。

ネガティブ評価といっても、特定の事業行動を排除するネガティブスクリーニングのよう
なお手軽SRIではく、社会にとってマイナスになることをさせないために株主として圧力
をかけるものだ。株主行動にもちかけられることで、企業にリスクになることを認識
させる投資だ。

例えば、欧州のプラント建設会社ABBでは、人権問題に対応することになったきっかけは
スーダンなどの紛争地域での操業について、年金基金の投資家から強い指摘を受けたこと
だという。投資家は、問題事例の実情をあげそれに関わっている同社の活動の改善を
迫り、十分な対応策が取れなかったため投資ポートフォリオからはずした。投資家という
より社会活動家なのだが、財務面からみても、社会問題を引き起こしている(それに
関わっている)企業は投資先として適格でないのだ。

このようなアクティビズム型SRIは日本の投資家にはみられず、海外と日本のSRIの差が
ここに見られる。

●海外直接投資でのESG配慮

またSRI投資には、市場を通さない投資案件も含まれる。
地域開発や資源開発などへの事業投資であり、海外直接投資(FDI)、なかでも新興国
への投資案件が対象だ。このようなFDIの個別プロジェクトについて、周囲の環境配慮
や住民の生活圏への影響を組み込むことも、SRIのひとつの形といえる。投資家の間
では、SRIといいたがらないようで、ここではFDIにおけるESG投資といっておこう。
公的資金にはもちろんのこと、そればかりでなく民間の資金に対してもESG要因を組み
込むことで監視を強めるようになっている。

プロジェクト融資の環境評価には赤道原則があり、日本の金融機関もこれを踏襲した
プロジェクトファイナスが浸透していて何も新しいことではない。重要なのは、
「融資基準としてきちんと考慮しています」という文言が、実際のプロジェクトのなか
で本当にその通り行われているか、不安定な現場で起こる事情に則してリスク管理され
ているかだ。

新興国での開発投資は政情不安定な紛争問題に巻き込まれやすく、環境・社会面での
リスクが現実化している。OECDでは、多国籍企業行動ガイドラインへの違反の訴えを
受け付ける窓口を各国に設けているが、日本企業を含む多くの先進国企業の違反行動
が寄せられている。そしてこれまで開発業者である企業ばかりだったものが、プロ
ジェクトに投融資する金融機関も提訴されている事例が最近増えている。

例えば昨年は、ロシアのサハリンIIプロジェクトでの環境破壊について、当該石油会社の
ほかに、英国の銀行3行が金融面から現地事業会社を支援していると違反提訴の対象に
なった。石油会社と銀行3行は現地事業会社に影響力を行使できる立場にも関わらず、
環境破壊と人権侵害を正すことを怠ったと批判されている。

また韓国の大手製鉄メーカーが、インドの製鉄所建設の計画について、人権保護や環境
保全にかかわる包括的な調査を実施していないということが理由で違反提訴された。
ここでは、オランダの年金であるABPとノルウェー政府年金基金も、株主であるからと
いう理由で、提訴の対象にされた。年金基金が訴えられるというのは、初めてのこと
であり、投資関係者には衝撃が走ったそうだ。両機関とも倫理ガイドライン等ESGの
仕組みで世界でもっとも進歩的な年金であるだけに、本件への対応が注目されている。

企業への責任訴求だけでは解決できないとして、金融機関までも投資家の責任として
監視・追及が広がっているのだ。金融機関は、自らの投融資案件を無事に回収するため
にESGリスクへの対応が重要になっていることを肌で感じ、投資行動のなかで投資先の
ESGを評価する。

そのために、事業の方向性とあわせて経営の姿勢やESGへの取り組みの情報を求める。
大型プロジェクトであれば投資期間は長期にわたり、簡単に投資を引き上げるわけには
いかない。投資判断の基準は目先の利益ではなく、投資する地域へのコミットメントや
信頼度になる。株式投資の評価ポイントとはかなり異なってくるのだ。

開発プロジェクトに関わる業種では、このような長期プロジェクト投資家に向けて、
企業姿勢や長期の経営方針を示す企業報告が重要になっている。

●企業にとって影響の大きい投資家に向く

企業の担当者から、SRIインデックスに組み入れられた(またははずされた)が、これが
どんな意味があるのか、ということをよく聞かれる。インデックスに入っている方が
いいにこしたことはないが、スクリーニングで簡単に評価できるようなものではない。
自社にとって影響の大きい顔の見える投資家は誰か、彼らが何を経営に求めているかを
よく見定めて向き合っていき、マテリアルな報告をしていくことだ。