サステナビリティ倶楽部レポート

[第91号] 価値創造につなげるサステナビリティ戦略

2019年02月27日

 

●サステナビリティは自社の永続に必須
今月の弊社研究会は、サステナビリティを経営に組み込んで価値創造につなげている日立製作所とサントリーからご発表いただいた。サステナビリティ戦略は、社内中心の発想になりがちなCSRを超えて、変化が進む社会の中で今後の羅針盤として事業戦略のなかに位置づけていくべきものだ。自社ビジネスを永続させるために、何が必要かを考えれば自ずと社会や環境とのかかわりに至らざるをえない。今回の2社は、SDGsが広がる前から経営の中にサステナビリティが根づいている。

●社会イノベーション事業をさらに強化
日立は「社会イノベーション事業」を掲げ、多種多様なモノづくりをベースに、経営課題を解決する付加価値の高いソリューションの開発を組み合わせている。Social Innovationは数年前から継続的にEconomist誌に広告を出していて、このようなメッセージの出し方に注目し続けてきたものだ。事業や会社を説明しがちな日本的な広告とは違って、社会視点で将来を見ながらそれを解決しようとしています、というメッセージが毎回伝わってくる。

このように社会とビジネスの関係を以前から意識しており、SDGs時代にバージョンアップをはかるべく、「サステナビリティ戦略会議」を設けて推進している。興味深いのは、これまであまり関心のなかったCFOが、財務面の評価や調達のうえでサステナビリティが重要になっていることを実感し、積極的であるとのこと。これは5年前ではありえなかった変化だという。

これまでの社会イノベーション事業を事業機会の創出と伸長とするだけでなく、事業リスクを明確化しそれに対応していくことも並行している。次期の中期経営計画にこれらSDGs視点を組み込むべく、現在そのプロセスにあるという。サステナビリティ目標・計画を別途つくるケースが多いが、同社は事業から入っていき最初から統合していくアプローチだ。

このサステナビリティ要因を機会とリスクで分析する切り口が重要なところだ。これまで多くの企業がマテリアリティ分析でステークホルダーと事業の重要性で評価してきたが、これでは企業側の視点が弱くて事業に反映されていない実態だった。この点は第87号「サステナビリティ分野のマテリアリティ特定化への課題」で書いている。
https://www.sotech.co.jp/csrreport/1300

ステークホルダーよりも投資家を対象として事業への組み込みを検討するならば、機会とリスクに着目することだ。さらに同社のリスク分析では、事業が(社会に)もたらすリスクと事業が受けるリスクとに分けている。

評価する項目には、SDGsを利用している。17目標169項目について、サステナビリティ推進部のもとで各事業部が機会とリスクを評価してそれぞれで洗い出す。業種が多岐にわたりしかもグローバル展開する同社ではかなりの力業だろうが、このように社内の事業部と分析プロセスを共有し、サステナビリティ担当者も事業視点をもって自ら進めなければこの要因特定は成功しない。面倒でも社内での連携を繰り返すことが、各部署の理解にもつながる。手法の使い方が得意な外部コンサルタントに入ってもらっても、彼らは事業を担当していないのだから重要課題が自社特有のものにならず、その後の実施と運用ができないのだ。

●水と生きる サントリー
一方のサントリーは飲料メーカーの一点突破型。とことん自社ビジネスを見つめ直した事業の根幹・源が「水」であるというミッションで、「水と生きる」を軸にしたサステナビリティ展開は自然な流れだ。

多くのM&Aを展開し急速にグローバル化を進めていくなかでも、「水理念」は不動のもので世界での浸透に努力しているという。ただ日本で浸透しているレベルまでに海外グループ企業に理解してもらうには、同じようにはいかず時間がかかるものだろう。同社の本気度が試されるところだ。

同社は上場していないので投資家を意識する必要はないが、上場の大企業と同じように透明性やアカウンタビリティをもつことは大事だと考えている。サステナビリティ面では、自然資源を事業とするだけに、気候関連情報ほかの開示にも対応している。昨今のTCFDについても開示のプロセスに着手しているところだという。

●SDGsは経営手法に適切か
SDGsへの考え方については、両社で異なるところがある。
日立は事業に組み込むサステナビリティのよりどころとしてSDGsを据えており、評価項目に徹底して活用している。SDGsはグローバルな枠組みなので、社内にサステナビリティの重要性をぶつけるには通りがよいものだという。もちろん経団連の会長会社として、社内外で産業界をリードしていくという立場もあるだろうが。

これに対してサントリーは、SDGsが広がっているから水に配慮するというわけではなく、これまでやってきたことをこれからも続けていくことととらえ、それほどSDGsにこだわってはいない。
むしろ今日のSDGsは我々がやってきたことを改めて表現したものだから・・、といったスタンスであまり気にしていない。単に用語に振り回されることがないか、自分に問うことの方が重要だという。

どちらも「あり」だろう。SDGsが広がることで、社内でなかなか理解してくれなかったサステナビリティの重要性に目が向くという効果は実際ある。うまく活用して本質を語る、といった方法に使ってもいい。

一方用語に振り回されていては、どこかで流行りが下火になった時には活動も終わってしまう。サステナビリティとは持続可能な長期での道のりで、一時的なものではないはずだ。
都合のいいところだけ使うという「SDGsウォッシュ」について、非難の声もよく耳にするようになった。うまく使いつつ本当に「社会を変革する」ことに向き合ってほしい。

研究会でもSDGsを企業内での評価軸に使うことに、意見があった。「企業が社会から求められる価値とSDGsで語られる価値とは必ずしも一致していないが、それをどう考えるか」という議論。例えばサプライチェーンの責任などは、SDGsからは出てこない。

SDGsをそのまま活用しようとしても、時間軸も異なり無理があるものだ。そのまま指標とするのでなく、これをもとに社会・環境的価値を見える化することが大事で、あるべき社会からバックキャスティングして考えるよう促しているという。

また、SDGsではあらわせない項目、例えば「おいしい」「たのしい」などの価値は、企業がもたらすベネフィットとして重要で、実際に社会から評価をされてきた面だ。そのあたりはSDGsに縛られずに事業にとって重要なトピックを柔軟に考えてほしい。