サステナビリティ倶楽部レポート

[第79号] 外国人労働者受け入れへの意識喚起

2018年02月1日

 

●日本はすでに移民大国
最近在日外国人の話題が増えてきた。
「移民」といわれると日本人は相当数が抵抗感をもっており、正面から受け入れることが難しいといわれてきた。しかしそんな国民感情とは裏腹に、外国人は増える一方なのだ。2/3号の週刊東洋経済は、そんな実態を取材した「隠れ移民大国ニッポン」を特集している。在日外国人は着実に増え続け、現在247万人。「見方によっては日本はすでに移民大国だ」と指摘しているのだ。

いい感情をもたない外国人とはアジアや中東からの人材に対してであり、欧米人にはそんなことはない。こうした外国人が身近に住むと、治安が悪くなったり秩序が乱れるといった苦情がベースにある。

ところが高齢化社会で人口が減る日本社会では、人手不足が深刻化。低賃金労働を担ってくれる働き手として、外国人を頼らざるを得なくなっていることが実状だ。社員に無理な労働環境を強いられなくなっており、日本人にやってもらいたい、などと選別してなどいられなくなっているのだ。

●外国人の受け入れを正面から認める
外国人を受け入れるのはもう必須。それならば、いい形で支援できたらいいじゃないか・・。
そんな思いから、私自身は日本語学校に通うミャンマー人研修生3人に昨年4月から自宅の部屋を貸している。ミャンマー語を一時期習っていた時の学校が日本語学校なので、そこに通う女子研修生と縁ができたという経緯で、自分の娘のように思っている。

親から学費を仕送りしてもらってはいるものの、皆週28時間内のバイトをしている。この学校は公益財団法人が営む運営なので、不法労働が起こらないように厳しく指導しており私も安心して引き受けている。このうち一人はこの4月から日本の大学に入学することが決まっており、とても嬉しい。日本でたくさん経験をして、将来は日緬の発展に関わってほしいとやっぱり思う。

研修生や留学生には、この上限以上にバイトに精を出す者たちが後を絶たない。この学校の担当者から、最近中国、ベトナム、ミャンマー人の研修生受け入れ審査が厳しくなったと伺ったところだった。

日本が好き、日本に住みたいという外国人を増やすことが大事なことは言うまでもない。これを支援するには、観光の誘致だけなく外国人労働者をどうするかを考えていくことだ。
移民の負の面ばかり見ずに、実際にはそれでは通らなくなった現状に目を向け、それなら受け入れをどうするかその整備に正面から取り組むべきだ。これを怠っていては、日本に来て苦い経験をする若者の間で「日本はガイジンに冷たい国」と評判になって敬遠されていく。

●外国人実習生制度に世界からも監視の眼
何だかんだといっても、企業は人件費圧縮で安い賃金で働いてくれる外国人に労働を頼らざるを得ない。そうなれば、労働の現場で労働者の侵害が起こってくることは容易に想像できる。なかなか表にあらわれてこない労働の実状も、だんだん暴露されてきている。

外国人技能実習制度はそのひとつだ。
制度の趣旨は、途上国の人材を日本で受け入れ労働を通じて技術を伝えていくというものであり、国際貢献カ活動のひとつとして始まった。しかし実際には労働の現場で安価な労働力を得たいという産業界側の意図のもと、労働者の侵害が問題視されている。昨年11 月には、「外国人技能実習適正化法」が施行された。

実習制度の問題指摘を受け、大企業の間では自社内の労働状況を調べる動きも出ている。それでも働き方改革を標榜する大手企業の現場では、目に余るような劣悪な労働状況はあまり見られないようだ。

問題はサプライチェーンの先にある。特に農業や建設現場で起こりやすい。
数年前長野県川上村のレタス農家で、中国人実習生の搾取労働が指摘された。世間の眼が向けられている地元では、さすがに今は問題改善の取り組みをしている。それで実習生が減ったかというと、現在再び増加しているという。外国人頼みの労働の構造は変えられないのだ。

また先日はオリンピック新国立競技場建設の現場監督が、過酷労働を苦に自殺した。この監督は日本人社員だが、現場では外国人労働者を多数雇っているはずで、彼らの人権侵害が想像される。

技術の伝承という名目のもとに、実際には安い労働コストをあてこんだ受け入れになっているのだ。これはまさに人身取引(human trafficking)であり、国際的に問題になっている大問題である。

●日本で稼いで自国で事業をする、が理想
実習生の趣旨である技能伝承がうまくいかない背景には、企業側の問題ばかりでなく働く外国人自身の意識の違いも関係している。

実習生の多くは技術云々よりも、「ともかく稼いで国に帰りたい」という目的に日本に来ることが圧倒的に多いのだ。実習生を受け入れているある製造業の人事担当者は、「日本の工場でスキルを身につけてもらい、彼らの本国にある工場や事業所で働いてもらえればと考えてそのパスも用意しているが、まとまった金額を稼ぎたいと思うばかり。帰国したらそれを元手に自分の事業を始めたいという希望が多い」と話していた。

アジア諸国では政府や企業が信用されておらず、組織に勤めるよりも自分の足で立って商売していくことが理想的な働き方なのだ。この点も実習生制度が日本側の思い通りにいかない理由のひとつといえよう。大企業で国際貢献といった趣旨を実施できていないのであれば、中小企業や零細規模の事業所であればなおさらだろう。

●企業行動憲章に「人権尊重」と「責任ある調達」
最早、移民はイヤなどといっていられる状況ではない。外国人なしでは日本経済が回っていかない実状を素直に受け止めなければならない。これは単純に経済成長のためだけに移民の労働力を認めようということではない。日本で働きたい、という外国人が増えている間に日本の状況を整備しておくこと、これは国力の話だ。

そんな背景もあって、経団連では2017年11月に企業行動憲章を改定し、新たに「人権の尊重」の原則が加わった。ここでは国際的に認められた人権の尊重を会員企業に対して求めており、そのほかに「責任ある調達」も原則に盛られている。サプライチェーンにまで労働環境の責任意識をもたなければ、今の実態もなかなか改善がされないままだ。食品会社や小売業、建設会社を中心に、自社のサプライヤーでの外国人実習生の活用の実態を把握していかねばならない状況になっている。

企業の自発的な取り組みを含めて対策を取らないと、来日している外国人の間に「日本は働きにくい」という評判が広がり、世界で魅力のないガラパゴス国になり下がってしまう。日本に来たいという外国人を増やしていくためにも、各社はそれぞれが外国人労働者の状況を直視し、対応への意識を持つことだ。