サステナビリティ倶楽部レポート

[第76号] ダイバーシティはアジアに学べ

2017年10月27日

 

●アクティブなアジアの女性管理職
「女性社員の方が仕事ができて優秀です。」
タイ、インドネシア、マレーシアなど東南アジアの各国で操業する企業の方々に女性社員の状況を聞いてみると、100%確実にこう回答してくる。社員構成をみても、管理職に女性が大勢いるのがごく普通の光景だ。

このアジアの状況を知らない日本にいる日本人には、「女性が多いといわれても工場や作業所で低賃金で働く単純労働者の話だろう」と思う方が多いかもしれない。だがここでいっているのは管理職であって、工場や管理事務所内で「責任あるポスト」の話だ。

先日日系企業のタイ工場で管理職以上の社員に研修を実施したのだが、この状況を改めてみせつけられた。日本からの駐在員を含めて30人ほどが集まった研修室。まず日本人は全員男性。日本人女性は講師のワタシ一人ということなんぞよくある話で、もう慣れっこだ。いやいや、慣れてしまってはいけなくてホントは残念なのだが。

一方のタイ側は、半数以上が女性社員だ。
2日にわたる研修では、グループ討議にも十分時間をとってプログラムに盛り込んだ。その様子をみていると、テーマに関心をもって積極的にグループを引っ張るリーダー格や、議論をそつなくまとめていく論理派、そしてそれらを聞いているフォロワーなど各自の個性や特徴がわかってくる。そんななかでリードしていくのは多くが女性社員だった。

別の会社のタイ事務所長と夕食をご一緒した際も、ほぼ同じような状況を伺った。
女性が多いことはことさら取り上げるようなことでなく、むしろ「何で?女性が働いて当たり前じゃないの。」という具合に、もう空気を吸うような日常なのだ。世界を見回しても、「日本だけちょっと違いますね。」

●自然とダイバーシティを受け入れているアジア
女性の登用だけではない。
様々な宗教の信仰も日常のことであり、それにともなう生活習慣や食事の選好も「違って当たり前」。東南アジアと一口にいっても、それぞれの国でまた異なるのだ。これほどに多様な地域に日本企業は既に広範囲に操業を繰り広げ、「ダイバーシティ」の真っ只中にいる事実。にも関わらず、女性登用もなかなか進まず日本人以外との協調となるとさらに遠くなっているニッポンの現状ではないだろうか。

日本企業の人事組織をみるとその対象は日本国内だけであり、海外の労務状況や各国の人事制度までカバーしていないケースがほとんどだ。そこで海外事業所の人事は海外事業部が見ていると答える会社もあるが、事業部の業務は生産管理、販売促進などの現業の展開であり、管理業務まで対象になっていない方が多い。結局「海外人事」がエアーポケットになっていて、どこもみていないという状況になってしまう。「ダイバーシティ対応」というお題はグローバル展開の必要性からではなく、日本の政策的な主導から国内人事部に降ってきて、では女性登用からやりましょう・・・といった流れなのだろう。

そこでモデルとなるのが、欧米型特にアメリカ企業の先例を見習ってみようというアプローチだ。しかし現在事業とのつながりが強く、同じ地域圏にある日本企業なのだから、アメリカよりアジアにこそダイバーシティ推進を学んだらいい。混沌とした日常のなかに何となく秩序をつくっていくようなアジアの協調のアプローチこそ、世界でも先端のダイバーシティといえるのではないか。

●実はすぐ隣りにあるLGBT
さらに、LGBTについてもアジアの方が寛容だ。タイでは違った性であることを望んで自身がそのことを隠さずに振る舞うことは一般的であり、社会も「そんなものだ」と受け流していることはよく知られている。当然ながら職場でも様々な性が混ざり合っているわけで、そんな状況でも規則をつくってルール化するというよりも、生活のなかでうまくやっていく術を皆が心得ているという。

これだけアジアに出ていながら、「我が社はダイバーシティが進んでいなくて」「LGBTとか話題になるが、ほんの例外的で我が社には当てはまらないな」などと話している経営者がよくいる。実際には、こうしたことがグループ会社内に普通にあるのだが。LGBTにピンと来ない日本で対応策を練るよりも、自社操業内のタイの経験を取り入れた方がずっといいではないか。

●アジアから学ぶ
日本企業は方針や規範などを日本で策定し、それを世界の事業所におろしていくという「日本中心展開」からなかなか抜けられない。「我々は社員や地域を大事にしており、このやり方が優れている」といった自負が織り込まれており、こと東南アジアとなると日本がつくってきたモデルをアジアに浸透させる・・・という姿勢のままだ。

自分たちのアジアでのグループ会社のなかにダイバーシティの実態はあちこち見られる実状に目を向け、まずそこでどんな制度があってどう対応をしているかを知ってもらいたい。そのなかに、対策として取り入れる好事例が見いだされ、絵に描いた餅でないグローバル・ダイバーシティができてくるだろう。

そして何よりも、日本国内の自分たちが一番わかっていなかったと気づき対応しなければ、と意識を変える柔軟度をもってほしい。