サステナビリティ倶楽部レポート

[第61号] “CSR”から次のステージへ

2016年06月6日

 

●より明確に企業の「責任」を求める
今さらCSRとは何か説明するまでもなく広く浸透している。ところが日本の外では、最近はあまり“CSR”という用語は使わなくなっている。

CSRの否定は、マイケル・ポーターのCSV論で既に見られた話だ。しかしCSRをCSVに置き換えるポーター説には無理があり、逆にCSRを再認識する動きになった。
「戦略的CSRとCSV」
 https://www.sotech.co.jp/talk/622
「『CSRとCSVに関する原則』に寄せて」
 https://www.sotech.co.jp/csrreport/779

CSRの「責任」部分を求める声は日本だけでなく世界中で強く、その後も動きは強まっている。今ここで話題にするのは、責任をより明確にするために  “CSR”というある種使い古された語を避けていることだ。

●「責任ある企業行動」を求めるOECD
CSR発祥の地で2010年には再定義をした欧州内でも、CSRというと社会貢献や寄付など事業とは直接関係しないことの代名詞として思われることがまだある。ISO26000でSRを規定したものの、残念ながら世界ではこれはあまり参照されておらず、コンセンサスになっていない。

海外で重視されているものは、OECD 多国籍企業行動指針だ。ここで規定されている項目について企業が自ら行動することを、「責任ある企業行動(Responsible Business Conduct: RBC)」と呼んでいる。毎年OECDのパリ本部でRBCを進めていくためのフォーラムが開催されている。
https://mneguidelines.oecd.org/globalforumonresponsiblebusinessconduct/

CSRにとどまらず、企業に「責任」を問う項目を対象としており、2011年の改訂で人権の項目が追加された一方で、地域開発は含まれていない。そしてCSR以外の項目では「納税」が含まれており、最近実状が暴露されている租税回避も企業の責任として問われている。納税については、タックスヘイブン国の法規制で対応していれば違法ではないといえるだろう。しかし操業している国で納めるべき税金を逃れようという行為は、責任ある企業行動とはいえないのだ。

OECD行動指針が重んじられているのは、政府関係の機関であることに加え、各国に連絡窓口(National Contact Point)を設け問題がある場合に申し立てができる制度があることだ。ここで受理された案件は公表されウェブ上で閲覧が可能になる。企業側の自発的な対応が促されるので、政府が介入しなくても「責任ある行動」のもとに問題解決がはかれる仕組みになっている。

●CSRは死んだのか?
「CSRは死んだのか?」という議論も一時ヨーロッパで話題になった。
これは、産業界でサステナビリティを推進するWBCSD(World Business for Sustainable Development)の代表が、昨年1月にとある会議で発言したことが発端だ。

彼は5年前にWBCSDの代表に就いて以来一貫して、「今までのビジネス(business as usual)の延長ではなく、事業自体をサステナブルに大きく変身させなければ今後の社会のなかで生き残れない」と説いている。専属の部署だけがCSRを担当していればいいのではなく、事業戦略からあらゆる操業すべてにおいてサステナビリティの要因が当然組み込まれるもので、ビジネスそのものなのだという。WBCSDでは「サステナブル・ビジネス」といった使い方をしてきている。

実際のところはCSRを否定しているのではなく、社会貢献や寄付活動にとどまっているカジュアルな経営者に対して、あえて強い言い方をして警笛を鳴らしたものだ。
この実践例として、「サステナブル・リビング・プラン」を事業戦略とするユニリーバでは、CSR部門を廃止した。CSR部があると、他の部署は「自分達は関係ない」と考えがちだが、全社員が各自の業務にサステナビリティを織り込む責任をもつことを明示する策だという。外部のステークホルダーとの接点にはコミュニケーション部門が対応し、サステナビリティ報告は広報部門が統合報告を取りまとめているので、実務上問題ない。

●投資コミュニティではSRIからESGへ
投資コミュニティでも同じ様な動きだ。
社会派の投資家の間で使われていたSRI(Socially Responsible Investment)だが、今ではメインストリーム投資家にもこの環境・社会評価が広がり、ESG投資あるいは責任投資(Responsible Investment)と呼ばれる方が多くなっている。

これもSRIの否定ではなく、投資と社会性の関連が変遷し発展していく段階を示している。投資の担い手も変化しており、評価の視点や投資家の関心領域がESGとSRIでは変わってきているのである。

●世界のダイナミズムを知ろう
日本だけがこうしたダイナミズムに無関心で、相変わらずCSRと言い続けているようにみえる。
これでは世界の状況が伝わらないので、私もCSRと一括して言い表すことはやめ、「責任ある企業行動」「サステナビリティ経営」など、それぞれのもつ意味と背景を意識しながら用語を使っている。

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***国際シンポジウムのご案内***
「責任あるビジネス・責任あるサプライチェーン
 『ビジネスと人権に関する国連指導原則』を日本はどのように活かせるか」

ビジネスと人権に関する国際シンポジウムが、ジェトロ・アジア経済研究所の主催で行われます。この分野での世界における主要な講師を迎えており、グローバルな動向を知るよい機会ですのでご案内いたします。
 ・日時: 2016年6月29日(水)13:30 – 17:30
 ・場所: 国連大学 ウ・タント国際会議場
<主要な講演者>
 ・ 山田美和氏(ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター 法・制度研究グループ長)
 ・ Vicky Bowman氏(Myanmar Centre for Responsible Business)
 ・ Allan Lerberg Jorgensen氏(Danish Institute for Human Rights) 
 ・ Sara Blackwell氏(International Corporate Accountability Roundtable)

※プログラムの詳細とお申し込みは下記サイトをご覧ください。
 http://www.ide.go.jp/Japanese/Event/Sympo/160629.html
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