サステナビリティ倶楽部レポート

[第59号] アフリカでのソーシャルビジネス最前線

2016年04月5日

 

●アフリカまで行ってなぜ・・・
METIやJICAが中心になり、2010年ころからBOPビジネスの支援が進められている。あれから5年ほど経って、どんな進展になっているのか。
3月の弊社研究会では、アフリカでプロジェクトを進めている味の素とサラヤの2社の事例を伺った。

なぜまたわざわざアフリカまで・・・と思う方も多いだろう。
低所得層のマーケットならば、アジアにもまだまだ多くありこうした国々でも十分機会がある。アフリカで展開する2社にはそれぞれの理由があるが、未知の国でチャレンジしていく姿には共通して見えるものがある。

●栄養サプリメントの提供を事業化
味の素は、栄養不足による乳児死亡を防ぐために、ガーナで栄養改善プロジェクトを立ち上げた。
食品会社がグローバル企業として評価されるには、途上国での社会問題に向き合っていく姿勢をもつことが重視されている。この業界のトップであるネスレやユニリーバにとって、サステナビリティは事業戦略の柱であり、途上国の貧困解決や小規模農家の支援の面でも競争を繰り広げている。グローバルトップ10入りを目指す味の素にとって、新たに途上国支援をビジネスのコンセプトで取り組むことはそのための重要なチャレンジなのだ。

同社では、栄養サプリメントKOKO Plus(発酵コーンベースのお粥)を開発し、栄養改善を行っている。地域での経済的な自立の展開を狙ったビジネスを目指し、2008年にスタートした。社会貢献ではこの種の活動をたくさん行っている同社であっても、事業化については社内の賛同を得ることがなかなか難しく、100周年記念という会社の節目の特別事業という位置づけで立ち上げを説得させたという。

JICAによるBOPビジネス支援プログラムが増えているが、実際にビジネスとして成立している事例はまだ少ないと聞く。味の素の場合、様々な団体と連携するなかで、ケア・ジャパンとプラン・ジャパンの2つのNGOを計画段階から事業パートナーとしている。さらに現地の食品会社を生産パートナーとして工場を設立、2015年度以降は本格的な生産・販売のステージに入る。

●ウガンダで手洗い促進→消毒薬事業へ
サラヤは洗剤や消毒薬の販売が主事業であり、衛生や健康面での公共的な活動に積極的である。洗剤の主原料であるアブラヤシに関しては、共同イニシアティブであるRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)に参画するうえ、ボルネオ保全トラストの設立に協力するなど、マレーシアでの保全活動を意欲的に推進している。中堅企業にとって、「サステナビリティ」に注力することが知名度向上につながることを認識しており、こうした活動をトップが先頭を切って推進している。

衛生問題については、ウガンダで『SARAYA100万人の手洗いプロジェクト』を始動して手の消毒普及活動を行っている。ここではUNICEFをパートナーとし、対象衛生製品の売上1%をこの活動にあてるというコーズマーケティングを行うことで資金源を確保している。

ウガンダでは、普及活動だけでなくアルコールを現地で生産し、製品の開発、啓発・広告・宣伝を行っている。ウガンダを選んだ理由は、アフリカのなかでも比較的政治が安定していることがあるが、加えて現地でアルコール飲料が浸透しているので原料調達や製造機能もしっかりして生産の素地ができていることが大きいという。実践展開では、JICAのBOP調査を2012年に行い、現地の製糖会社との合弁生産会社も設立して、病院でのパイロットプロジェクトを展開している。

●途上国での成功要因
一歩ずつステップを踏んでいる2社の事例を聞くと、順調で簡単そうなビジネスにみえるが、たとえ小さな事業でも未知の土地でこのように進めていくことはたやすいことではない。今回のケースから、BOPビジネスの成功要因を探ってみた。

・ 推進担当者の強い意思
どんな仕事でもそうなのだが、先例のないプロジェクトにはこれにかけるヒトの意気込みが特に重要だ。この2社は、「顔の見える」推進者の存在が大きい。

味の素では、長くCSRを担当している中尾さんがキーパーソンだ。大企業といっても新規プロジェクトへの投資リソースは簡単に割り振られない。普通に考えてマーケティング上でOut of the questionであるアフリカの貧困層というターゲットについて、社内でGoを出させるまでもっていくことは簡単ではない。100周年記念にぶつける、という大義名分を活用する知恵が必要だったわけだ。

一方のサラヤはオーナー会社で、トップに意欲があるのでこのようなプロジェクトは推進が早い。社長自らが主要な国際会議にどんどん登壇し、直にメッセージを発信している。商品力の弱い小さな会社でも、メッセージを明確にしてこの分野のコミュニティに知られることが信頼のブランドとなることを実感している。

さらに、コミュニケーション担当の代島さんがサステナビリティ戦略の有効性をよくわかり、彼の推進力で展開しているところも重要だ。CSRとして「・・・ねばならない」という姿勢ではなく、自分の思いを入れ込んで完全に一体化している。サラリーマンというハメられた枠ではなく、一人の職業人プランナーとしてまたNGO感覚をもった社会人としての行動力が、同社を引っ張っていることがよく伝わってくる。

最近の若者は海外に行きたがらない傾向にあると聞くが、私の周りでは途上国の貢献活動や起業に関心もつ人たちによく会う。若手の人材育成の意味も含め、彼らにチャレンジの機会をつくっていくことがこのビジネスの成功にもなってくる。

・ 国際機関やNGO等様々なパートナーとの連携
貧困や衛生問題等は、どこか一つのチカラが動けば解決するものではない。土地勘のない海外の企業が奮闘するのだから、企業のリソースだけで頑張ろうとしないことだ。

SDGsの達成に向けて、国際機関や世界の様々なNGO、そして現地の専門機関や地域市民組織の活動が活発になっている。こうしたグループの特性や得意分野をみて、従来の枠にこだわらずに事業パートナーとして協力しあうことが必須だ。このようにステークホルダーとエンゲージし進めるなかから、次の事業機会や地域と信頼が生まれてくるものだ。

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【2016年度 サステナビリティ経営ネットワークのご案内】
今年度も、創コンサルティング主催「サステナビリティ経営ネットワーク」を開催いたします。戦略的CSRとサステナビリティ経営のさらなる展開に焦点をあてた研究会ですので、どうぞご参加ください。

・ 日程とプログラム:
 1. 6月30日(金)   最近のサステナビリティ動向のレビュー
 2. 7月22日(金)   長期投資家による企業評価
 3. 9月2日(金)    サプライチェーンでの対応
 4. 10月21日(金)  CSR情報の開示とレポーティング
 5. 11月25日(金)  持続可能な開発目標(SDGs)のその後
 6. 2017年1月27日(金) 人権リスクへの対応
 7. 2月24日(金)   価値創造につなげるサステナビリティ戦略

・ 参加費用:  企業1社あたり200,000円(税込216,000円) 2名様まで参加可

※詳細とお申し込み受付は下記サイトをご参照ください。
https://www.sotech.co.jp/info/1005

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【ミャンマーの大学においてCSR特別講座を開催】
創コンサルティングの代表海野みづえは、ミャンマー第二の都市マンダレーの二大学において、CSR特別講座を行いました。この講座は教職員と今後ミャンマー社会を担う学生に対して人材育成の機会を提供する目的のもとに、3回シリーズで実施されました。
https://www.sotech.co.jp/info/990