CSR倶楽部レポート

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   CSR倶楽部レポート 第59号    2009年1月26日
     「新しい責任の時代」

     発行:(株)創コンサルティング
        海野 みづえ ( info@sotech.co.jp )

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続き>>http://www.sotech.co.jp/talk/vol27.html

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●世界が注目した就任演説
オバマ大統領の就任はアメリカだけでなく全世界から待ち望まれていたもので、
就任演説も注目に値するものだった。これでようやくアメリカも流れが変わる。
世界の期待が大きいだけに、演説も現実問題を踏まえたうえでの具体的な変革の
方針が盛り込まれた。

力強さと人を惹きつける話ぶりはアメリカらしい。日本の政治家も、少しくらい
見習ってほしい。ネイティブでないから聞いてすぐ内容すべてを理解できるわけ
ではないので、後から原稿をよく読んでみると、話題の展開や言い回し、用語の
使い方など非常に良く練られている。スピーチを勉強するうえで、これはとって
もいい教材になる。

アメリカ経済の弱体化を「一部の者の強欲と無責任の結果であるだけでなく、
・・・我々全員の失敗の結果」と認め、疲弊している社会を直視している。
そして、世界の環境問題や社会問題への取り組みもはっきりと位置づけられて
いる。「持続可能な社会」という言葉は使っていないが目指す先はそのもので
あり、そのビジョンを明確に示したといえる。

環境政策の柱は、クリーンエネルギー開発だ。環境分野に投資する政策を推進
することで、気候変動やエネルギー危機に対処すると同時に雇用創出と経済
再生を狙う『グリーン・ニューディール政策』への認識が世界で高まっている。
オバマ氏もすでにその方策を表明している。今回の演説では、「太陽、風や
土壌を利用して自動車を動かし、工場を動かす。」という多くの一般市民が
聞いてわかりやすい話し方で、表現の工夫はなかなかだ。

また貧困への対策は、世界の様々な国々との外交のなかで取り上げており、
先進国の消費行動が資源国の開発問題に大きく影響していることについても
触れている。いくらでも自分たちの欲しいままに消費できるのではなく、
「世界は変わった。だから、我々も世界と共に変わらなければならない。」

●今あらためてそれぞれの責任を問う
そして「米国民一人ひとりが自分自身と自国、世界に義務を負う」という、
新しい責任の時代。このことは、企業は社会に対してどこまで責任をもつべき
なのか、というCSRの議論にも通ずる。公共、公益的な社会課題について、
政府や公共機関だけでは対処しきれないので企業もその一部の責任を相応に
負うべきというものだ。

「義務をいやいや引き受ける」ことがコンプライアンスであるとすれば、
「喜んで機会をとらえる」ことがそれを超えるCSRといえる。そしてそのよう
な自発的な取り組みをすることにより、「心を満たし、我々の個性を示す」
ものになる。CSRの理解もまったく同じことだ。

CSRは事業のなかでもうやっている当たり前のことで、改めて問う必要はない
という意見をまだ耳にする。そのような受身の責任ではなく、戦略にプラスの
側面を組み込めるという意味が責任にはある。またCSRは欧米流でありその
ままで日本には馴染まないという人も多いが、これを機に「新しい社会的責任」
へと考えを切り替えられればと思う。

そこで、日本ではどのようにあてはまるかをCSRの関連で考えてみた。地球規模
での共通のビジョンとして、人間社会がどの方向に向かっていくべきかが
まずあり、それと照らして今の問題を誰がどういった役割で取り組んでいく
かだ。各国の施策は、この国際レベルでの共有にもとづいて政策に落として
いくことにある。

●政府主導でビジョンを推進している欧米の環境政策
グリーン・ニューディールはその柱であり、オバマへの政権交代でこの方向が
明確になったアメリカに比べ、日本ではいまひとつ統一した推進力や後押しが
みられない。環境省が日本版の施策策定に着手してはいるのだが。今や
環境政策は経済政策であり、景気回復のための政府方針としてトップダウンで
扱うべきものになっている。これまでのエネルギー政策や環境行政の延長では
なく、持続可能な将来に向けて既存の社会システム全体を変えることを目指す
必要がある。

企業や個人の環境意識の向上はもちろん重要だが、政策で大きな方向への
舵取りが明示されなければ体制としてついてこない。例えば欧州で投資家の
判断に環境要因を組み込む動きが強くなっているが、これもEUの強力な環境
推進政策がベースにあることが大きい。

先日ヨーロッパのSRI専門家とミーティングを開催した際のQ&Aでもそれがよく
あらわれていた。

質問者(日本の機関投資家):「原子力発電に力を入れている企業に投資する
  かどうかの基準について迷っている。どう考えたらいいのか、ヨーロッパ
  の事例を教えてほしい。」
回答者(ヨーロッパのSRI専門家):「制度として規制あるいは推進の政策が
  あるので、それに照らして投資するかどうかの判断をする。
  (ESG投資では)投資家それぞれが良し悪しの基準をもつということでは
  ない。」

投資家がESG投資に関心をもちだしているのは、彼らのマインドが倫理、社会性
に目覚めたのではなく、政策による環境投資への明確な方向があるためそれを
基準にしているということだ。日本ではSRIというと「投資によって社会を
変えよう」という社会的な効果ばかりに目を向けられるが、政策による誘導で
金の流れが変わったところで生まれたESG投資との違いを知っておく必要がある。
SRIが日本でいまひとつ広がらない理由は、日本の投資家が金しかみていない
ということではなく、制度面の違いが大きい。

明確な政策によって方向を打ち出す、という政府の責任を果たしてはじめて
企業や個人もそれぞれで何をすべきかが明確になる。CSRは自主的な行動で
あることをいいことに、政府がやるべきことを回避していいわけがない。

●雇用問題での政府と企業の責任
昨今問題になっている非正規従業員の解雇についても、政府の役割として議論
が欠けていると考えている。企業が雇用を維持するのは重要な責任だが、
すべて企業が負いきれるものではない。だぶついた雇用を抱えて財務を圧迫
すれば株主価値が損なわれる、という株主の利害に対応するのも当然だ。
だからといって、雇用からあふれた人たちを、努力しないあなたが悪いと
いって自己責任でかたづけていいものでもない。

社会が持続可能でなければ、企業も長期的に持続可能にはならない。公的な
施策と企業経営が別々に議論されるのではなく、政府と企業の責任をどのよう
に分担していくかが先にあるべきだ。現在の急激な景気悪化のなかで、まず
公的な失業対策を政府の責任として考え、そこに企業としての雇用の責任を
ともに考える、という投げかけを政府がもっと示していくことが大事では
ないだろうか。


一国のリーダーが負う責任を明確に表明しているアメリカに対し、政府や首相
の責任が曖昧なままチェンジが起こらない日本。オバマ氏の演説を聴いて、
日本の後進性にがっかりしている一方で、個人の責任を果たしていないかも
しれない私自身を、ちょっと顧みている。

※演説原稿の日本語訳は、読売新聞の公表した原稿(2009年1月21日版)から
引用しました。

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