サステナビリティ倶楽部レポート

[第55号] 予防措置より救済措置を

2015年12月9日

 

● 人権侵害を起こしている日本企業の実状

ステークホルダーやNGOとの恊働の必要性が、以前にも増して話されている。ところが懸念をもった利害関係者と実際に対話するとなると、会社側はまだまだ躊躇するのが現状だ。

 

そんななか、アジア諸国での日本企業の事業活動によって侵害を受けている利害関係者から直接その実状を聴く機会があった。いずれもNGOが主催するセミナーで、1回目はメコンウォッチによるミャンマーでの石炭火力発電事業、もうひとつは地球・人間環境フォーラムやFoEが開催するマレーシアサラワク州の熱帯雨林の違法伐採についてだ。後者では、パネルディスカッションのファシリテーターをつとめた。

 

ミャンマーのケースは、石炭発電所の建設計画が進む地域住民の反対運動だ。今COP21でまさにこの問題が議論されているが、CO2削減に向けて火力発電に世界から厳しい眼が向けられている。にもかかわらず、今から大規模に建設を進めようという日本企業のプロジェクト。東洋エンジニアリング、三菱商事、丸紅などの社名があがっていた。

 

ミャンマーは軍事政権などの課題がありながらも、市民レベルで力強いネットワークを作ってきた。市民運動も住民が抗議行動をするだけでなく、各所の市民組織をコーディネートするグループもおり、彼らが地域をまとめながら政府や国際機関への働きかけを組織的に行うなど、しっかりしている。

 

住民ら被害を受けている現地のミャンマー人4人がそれぞれの状況を話す。のどかな農村地帯で、今の生活で十分豊かなのに自然を破壊されたら生計手段がなくなる。発電した電気はこの地域以外の経済発展のためのものだ。さらに今問題の石炭火力発電だ。急速に開発プロジェクトが進むなかでも、地域に配慮した責任ある企業の行動がおろそかになってはならない。

 

サラワクの森林伐採の実状は、欧米のNGOが2年前に指摘し報告書「野放し産業」を発表している。ここでは双日と伊藤忠商事があがっており、今回は商社だけでなく、材を使用する大手建設会社などの名前もあがってきた。このセミナーでも現地の先住民族による実状の報告が生々しかった。現地企業による信頼おけない森林認証の状況、森を皆伐され追われた先住民の悲惨なその後の生活・・・など、現地の悲痛なる思いが伝わってくる。

 

● 苦情を聞くだけでなく解決するメカニズムを

ステークホルダーとの対話とは、このような直接被害を受けている現地の利害関係者や市民団体と接しなければ意味がない。NGOには利害関係者を組織して仲介する役割がある。

 

ところが日本企業の対応をみると、こうした利害関係者との接触を避ける傾向が多い。コンタクトしてきても会わない、反応する場合でも「それにはお答えできません」といった返答など、利害関係者に向き合っていない。

 

人権問題に対応するということは、まず起こっている人権侵害の解決のために動くことだ。指導原則の第3柱救済措置であり、苦情処理メカニズムに取り組むことなのだ。単に苦情を聞けばいいのではない。第2柱の人権デューディリジェンスばかり注目されているが、これは平時対応の予防措置である。火事で家が燃えているのにそれを消そうともせず、防災対策を論じているようなものだ。

 

● 指導原則でも救済措置が課題

11月に国連ビジネスと人権フォーラムがジュネーブで開催され、今年も参加してきた。今年は参加2000人を超えており、年々活発になっている。

そこで一番多い参加が市民社会であり、被害を受けている利害関係者が会場で自分たちの実状を発言することが大きな目的でもある。実際に起こっている人権侵害をどう解決していくか、なのだ。

 

また今年のフォーラムでは、”Speed-up, Scale-up”という言葉が何度も聞かれた。実際には人権侵害がなくならないじゃないか、という市民側の苛立ち。この背景から、UNGPに法的拘束力をもたせる議論が始まっているが、条約化されたとしてもすべて解決するわけではない。ヨーロッパなど人権意識の高い国でも、救済措置は難航しておりなかなか運用に至っていないようだ。昨年より救済措置のワーキングが始まっているが、これもコンセプトレベルで実効力のあるものにするにはほど遠い。

 

欧米企業にとっても、苦情処理の実務は難しい。それでも社内の予防措置システムだけつくっても意味がない、ということで利害関係者に向き合う努力や業界レベルでのイニシアティブでの対応などは進んでいる。そして利害関係者との架け橋となる市民団体やNGOをかませたマルチステークホルダーの協議がひとつの解決策だ。国連フォーラムでも、日本企業が関わる成功事例として、ミャンマーのティラワ経済特区での苦情処理メカニズムの事例報告があった。

 

● 問題の起きているサイトでの解決策を

冒頭セミナーには企業の担当者が多数参加していた。UNGPも学んで人権デューディリジェンスは理解しているが、いまいちしっくり来ていないようだ。それは上記のように、本社を中心とした評価で社内の仕組みをつくるという日本的発想の予防措置の限界なのだ。

 

侵害が指摘されている地域やサイト単位で、そこの利害関係者やNGOと向き合う救済措置から始める、これが究極の解決策だ。怖がらず、まず話を聞くことからはじめ、一緒に取り組む以外に対策はない。