サステナビリティ倶楽部レポート

第30号 「非財務情報の報告に関するフレームワーク」

2013年09月25日

非財務情報の開示に関するフレームワークがこの春に立て続けに発表された。もうすでにあちこちで解説しているので詳細はそれらを読んでいただくことにして、ここでは私の考えるポイントを整理しておく。

●統合報告の趣旨は、情報を体系化すること

まずは統合報告。「統合」報告というと、アニュアルレポートとCSR報告書を合わせたもの、と開示の形式にとらわれる方が多い。しかし形式よりも、財務情報と非財務情報をどう統合していくかを考える、統合思考で臨むことが根本だ。これができていないところには、必ずほころびが出てくる。

それには、報告(reporting)と報告書(report)の区別を理解しておくことだ。報告は、財務情報、非財務情報のすべてあわせ体系に整理して構成することで、報告書はそのなかで冊子として発行される形態の情報のまとまりだ。どの冊子には何を載せ(=個々の報告書)、それ以外をウェブ上でどう開示すれば効果的かを全体で考える報告。それぞれ複数の報告書を一連のロジックで発行することが大事であり、この全部を盛り込んだ一冊の報告書を目指しているのではない。

●誰に向けた報告か?で媒体を考える

では、情報をどのように整理し報告たらいいか。

報告書の内容は、ターゲット読者を誰に置くかで決める。IIRCは統合報告を投資家向けとしており、GRIのサステナビリティ報告はステークホルダーへの開示を唱えている。対象が異なるので同じ冊子にできるものではなく、サステナビリティ報告を別途に作成してしまう方がすっきりしていい。実際欧州企業には、両方をつくり続ける方針の会社が多い。

そこで、これまで投資家向けに作成してきた財務中心のアニュアルレポートに、非財務情報をどう統合するかが新しい視点になる。アニュアルレポートの戦略や事業概況のところで、環境・社会要因が組み込まれている企業も多いが、あまりそれを意識していないIR担当者が多かった。そこに目を向けてもらうことだ。CSRの立場でいえば戦略的CSRの部分で、ESG要因が経営にどう入っているかで、これで企業価値につなげて説明できる。

またアニュアルレポートのなかで財務報告を切り分け、新たに統合報告スタイルの冊子をつくるという発想もある。これから米国企業の間でユニークな独立型の報告書が出てきそうだ。

これができれば、基本的CSR(=ステークホルダー対象)とコンプライアンスの部分はCSR報告で、と切り分けてわかりやすくなる。詳細情報はウェブで、というスタイルはCSR開示で定着しており、冊子を発行しなくても報告は十分されている。

●6つの資本の解釈

統合報告の内容がわかりにくいのは、IIRCのガイダンスが実務ガイドというよりコンセプトの段階だからだろう。???のひとつは、6つの資本によるインプット-アウトプットのモデル。

何やら新しい概念と思ってしまうが、6つ資本をもっとわかりやすいものに考え直すことをお勧めしたい。まず、日本でも昔から言われてきた「ヒト、モノ、カネ」の3つの経営資源をベースにする。資本を資源と置きかえてください。これに知財を加えた社内の経営4資源。これに環境、社会という外部要因を加えて6資源。

社内のリソースだけではなく、外部(不)経済をどう内部化するかがこれからの経営課題であり、そこで最後の2資源の説明が重要になる。このような資源を使って、どんな事業活動をしているのかを報告することが統合報告になる。

●マテリアリティの判定

次のキーワードはマテリアリティ。GRI G4では、レポート内容の決定つまりマテリアリティ特定のプロセスを示している。マテリアリティはG3ですでに取り入れられていたが、G3では絞り込みを推奨する一方でこれまで通りの長い指標のリストも受け入れざるを得なかったので、ここに矛盾があった。G4ではその矛盾がある程度解消し、すっきりした感がある。ただし、SRI調査機関のように、依然として各分野の情報を網羅的に開示する要請がなくなるわけではなく、CSR担当者としてはG4 に沿ってマテリアリティ判定をしても、どこかで幅広く開示しなければならないというジレンマは解決しないだろう。

統合報告との関係では、「誰の何にとってのマテリアリティなのか」によって重要課題の項目が変わってくることを素直に受け入れた方がいい。報告対象が異なればその訴求するポイントも変わるので、統合報告とCSR報告を別々に出した方がいい理由もそこにある。

●ガバナンス状況の国際間の違い

さて、最後に欧州委員会の非財務情報の開示規制について。このガバナンスパートのうち、注意をひくのが取締役会の構成の多様性に関する開示だ。ガバナンスに関する各種の指標(取締役の独立性、役員報酬の開示など)ではなく、多様性を重視するのはなぜか?

欧米では、経営の最高機関である取締役会が経営陣をしっかりと監視することが、ガバナンスの機構であり機能である。そこで取締役会は社外の独立した人材で構成しており、外部の眼でチェック&レビューするという役割だ。汚職や粉飾があれば、株主から取締役会の責任が強く問われる。馴れ合いでやっていては、外部から突き上げられるリスクが日本よりもずっと大きい。

取締役会に緊張感があり、この機能が働くことが健全なガバナンスをつくることなので、そのメンバー構成が重要なのだ。そこで、取締役会の多様性を重視する。ここが信頼できなければ、どんな情報が開示されても社内のロジックでいかようにでもなってしまう。

日本では、社外取締役の導入がようやく始まったが、取締役会の過半数までいっている会社は数少ない。取締役会の機能強化をCEOが本気で考え、社外役員の視点にさらされる覚悟をしない限り、EUのような情報開示には意味がない。

非財務情報の開示が国際的に広まっていることをきっかけに、国際場面で実質的な取り組みを変えていく必要性を理解してほしい。