サステナビリティ倶楽部レポート

第7号「企業ブランディングを実現するCSR」

2011年08月2日

●世界のエグゼクティブがCSRブランド価値を認識

CSR倶楽部レポート 第72号「自社“らしさ”を押し出したCSRブランディング」で、自社の特長を加えた戦略的CSRについて取り上げ、これを「CSRブランディング」として説明した。ここで書いたことを含め、3月に「企業ブランディングを実現するCSR」(海野みづえ/細田悦弘 著 産業編集センター発行)を出版した。

世界のエグゼクティブは、「サステナビリティが経営に及ぼす影響を無視できない」と認識しており、サステナビリティがメガトレンドになりつつある。しかし、実際に自社の戦略のサステナビリティを明確に位置づけ、それを積極的に投資計画に組み込んでいるところは、全世界でみればまだ限られる。

このひとつの理由に「サステナビリティ」が全世界で明確に定義しきれていないことがある。

アメリカは、企業市民としての社会貢献がこれまでの認識であり、本業に組み込んだCSRにはさほど興味をもってこなかった。ISO26000が発行しても、ISO自体に関心がないのでCSRの概念が広がる見込みも薄い。それよりもサステナビリティという用語の方が、ビジネスに関連づけられていい。といっても、日本語でわかりにくい「サステナビリティ」は、英語圏でもやはり一般人まで馴染む用語にはなっていないようだ。

とはいえ、企業の評判やブランドという面で、はっきりと数値では測れないけれどもサステナビリティが企業価値に影響を及ぼすことを彼らは肌で感じている。環境や社会活動に取り組んでいなければ、世間からソッポを向かれる。社会から良き評判を得るためにも、サステナビリティを意識することが重要である実情が伺われる。これこそ、「企業ブランディングを実現するCSR」だ。

●ステークホルダーとの連携強化によるブランド価値の向上

CSRの取り組みは長期にわたる社会へのコミットメントだ。地域における様々なステークホルダーとのエンゲージメントを推進し良好な関係を構築することは、地域でのポジティブな評判を獲得しブランド価値の向上につながる。

事業活動が拡大化、グローバル化してくると、企業だけのリソースでは末端の現場での状況まで管理できない。この盲点がNGOからの指摘につながるので、地域のステークホルダーを企業の良きパートナーとすることで評判リスクの低減につなげるところが多い。

また、チャリティや慈善行為としての貢献活動ではなく、地域に向いた活動のなかでも自社事業との関連性を意識し、現在そして将来に向けてビジネスにプラスに働く活動として展開する戦略的社会貢献が重要性を帯びている。本業を行うなかで、地域との連携を深める活動も含んでいる。ISO26000でも、「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」はそのような方向になっている。

これからのコミュニティ活動は、地域の人材を雇用することで所得の創出につなげる、といった経済的な効果を包含した戦略性のあるものが求められている。そして、教育や技能開発を提供することでその地域の人々のスキルが向上でき、人材の育成に寄与することで地域の自立を助け、継続的な地域発展につなげることができる。一度限りの社会貢献活動でない、持続可能な地域づくりだ。

地元の機関やNGOなどと一緒に課題解決に取り組むことで、そこの人たちとの信頼関係が構築できる。ステークホルダーには国際機関や現地の政府も含まれ、こうした機関との官民パートナーシップを活用することで、新たなパートナーシップ構築のきっかけを作れる。地域との信頼構築はCSRでのブランディングであり、企業価値の創造に大きく関連してくる。

●社外とのコミュニケーションで取り組みを積極発信

欧米の企業をみていると、CSR担当者の役割は社内よりも社外とのコミュニケーションが中心だ。投資家やステークホルダーからの企業への透明性や説明責任を求める動きが根付いているからだが、こうした活動も企業のブランディングを意識して外部からの評判を得ようという現われだ。企業がどれだけ社会にコミットしているかをステークホルダーに示す姿勢だ。

CSR/サステナビリティ担当組織は、コーポレートレベルのコミュニケーション担当部門(広報部、コーポレートコミュニケーション部など)に位置づけられる会社が多い。従って、サステナビリティ報告も形式にこだわったコンテンツでなく、いかに実際の読者に関心を持ってもらうかに力点が置かれる。冊子の報告書は、分量が限られ財務報告との連携など内容の専門性も求められている。

そこでCSR活動の詳細を伝えるために、どこもオンライン版の充実に力を入れている。ウェブという自由度の高いコミュニケーション媒体の機能を、よく活用しているのだ。適時性も高い。

いってみれば「自由演技」であり、会社のブランドを存分に表現している。逆にウェブが見栄えしない会社は、CSR/サステナビリティ活動にも力をいれていると思えず、知らず知らずのうちに評判を落としている。もったいないことだ。

社外への発信とともに、社会で何が起こっているのか、会社のどこに関心を持たれているのかを拾い、社内にフィードバックすることもサステナビリティ担当の重要な役割だ。社内の様々な機構に取り込み事業に反映することで、会社にとってのリスクに早めに対応するばかりでなく、これからのビジネス機会となりうるものをキャッチできる。

社内でのコミュニケーションは、CSR活動の浸透というよりも社会で起こっていることを社員一人ひとりに知ってもらうという目的の方が強いようだ。世間からの評判を知ることが、社員の意識を上げることにつながる社内ブランディングの考えだ。

日本企業に共通の「CSRは陰徳」という考えは、早く捨てた方がいい。説明してはじめて世の中は会社の姿と実態をわかってもらえるのだ。これから新興国市場を開拓する場合には、ますます投資としてこのCSRブランディングが重要になってくる。