サステナビリティ倶楽部レポート

[第84号] アクティブ・ファンドマネージャーとの対話を有効活用する

2018年07月30日

 

●パッシブ(インデックス)運用vsアクティブ運用
前号の「ESG投資が本格的に広がるために」で、価値協創ガイダンスをうまく使って自社の説明をしていくことをお勧めした。そのあとにこのガイダンスを出している経済産業省から「アクティブ・ファンドマネージャー分科会報告書」が発表された。ということで、今号は前回の続編。

この分科会は、現在の投資界がインデックスに連動した「パッシブ運用」が主流になる中で、「アクティブ運用」の重要性を主張している。アクティブ・ファンドマネージャーが、私が考えるようにESGの何がどう自社の事業に及ぼしているのか、社会の特定要素と財務との関連はどう説明できるのか、といった内容に賛同していることがよくわかり興味深い。投資側からのチカラ強い支持であり、このような率直な見解の表明に「はっきり言ってくれてありがとう」と言いたい。

アクティブ運用は企業のファンダメンタルズ、つまり本来持っている収益力の分析がベースだ。企業にとっては、このように深掘りして企業を数値だけでなく内容をよく知ろうとしてくれるアクティブ投資家が増えてほしいと思う。実際には世界的にパッシブ運用の方が圧倒的に増えており、アクティブマネージャーはマイノリティなのか。今回の報告書は、そんな中でもアクティブの影響力をつけようという想いが伝わってくる。

●ESG投資にアクティブ運用を宣言し、積極性を示す
「我々はインデックス運用とは違う。社会的価値をもっと示すべきだ。」
そうそう、重要なのだからもっともっと発信してください。少数派ならばなおさら、言ってくれないとわからない。
ESG投資も、GPIFがインデックスを採用したことで広まった経緯がある。これで知名度が上がりESGが理解されてきたのが現状。そこで次に、ファンダメンタルズの中にどうESGの要素が組み込まれているか、と言ったアクティブ運用での活用を植え付けてほしい。

報告書のESGに関する記載部分については、以下が要点。
「3.2.4.2. 企業は自社固有のESGを考えるべきである
・・・今は投資家からESGテーマは何かと企業に聞いているが、本来は企業自ら考えて対処すべきこと。」

「5.4.6. ESG情報を網羅的に求めない
・・・インデックスに採用されるために出すESG情報とアクティブ・ファンドマネージャーに提供するESG情報は別個に考えてほしい。・・・
・・・アクティブ・ファンドマネージャーとしては、専門ベンダー向けのような網羅性のあるESG情報は重視していない・・・」

「5.4.7. ESG情報を経営全体の構成要素の中で見る
・・・財務もESGもインテグレーションで判断するというのが基本方針であり・・・
・・・ESGのみを取り上げて注目する、ということではなく、銘柄全体をみてどうリターンを上げていくかを見ている。」

「5.4.8. ESG情報と競争優位性の関連を重視する
・・・ESGを含めた競争優位性についての理解が必要・・・」

はっきり「インデックス向け情報とは違う」というなど、アクティブ・ファンドマネージャーのポジションを示してくれているところが爽快だ。アクティブ運用では、ベンチマークを上回る成績を求められるためプレッシャーがきつい。だからそこまでやるよりも、インデックス運用の方が好まれてしまう。それでも「社会性の追求も重要」と言って、投資哲学を持っている人たちがアクティブ・ファンドマネージャーなのだろう。

これらを実施していくために、「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」を表明。認識を共有する運用機関やマネージャーの輪を広げようとしている。

●投資家との対話、エンゲージメントを企業側からも
企業側も、待っているだけではいけない。
経営の構成要素のなかで、競争優位になっている自社固有のESGを説明する。そのアプローチは、サステナビリティサイドから導き出すのではなく、ビジネスモデルのサイドから探っていくことだ。この作業は経営企画やIR担当者が主導になって進める方がいい。

CSR/サステナビリティ担当者は、インデックス向けのアンケート回答などで網羅的な対応に慣れきっている。自社特有の課題を優先して評価を、という場合には今までのやり方がむしろ障害になってくる。マテリアリティ評価はこれを助けるための手法なのだが、評価したもののかなりの課題数になったなどメリハリのない結果になる例をよく見てきた。ステークホルダー側に立つと、絞ることがなかなかできないと聞く。

また優先評価をしても、課題の絞り方が社会目線であることが多い。マテリアリティ評価の結果がCSR分野だけで完結していて、事業報告にほとんど反映されていないことがよくある。評価の横軸は「企業にとっての重要度」なのだが、ビジネスモデルや財務の観点がもてていないのだ。

CSR/サステナビリティ報告とは別に統合報告を発行する企業も増えている。ならばなおさら統合報告の中にESG情報を別立てで掲載するのではなく、事業の中のESG要素を担当者がよく理解して組み込むことだ。

そこで、投資家に接するたびに、企業はどうやって改善したらいいかを聞いてみている。
誰からも聞かれる対応策は、「ともかく投資家と話をし、疑問点をぶつけて回答を求めるやりとりする」ことだという。専門家やコンサルタントに聞いて十分準備してから投資家に示そう・・・などと思わず、完成していなくていいから直接コンタクトすることだ。

投資家といっても様々なカテゴリーがある。立場が違えば反応はまちまちだ。相手の要望に応えようと考えるのでなく、自社のことを一人でも多くの投資家にわかってもらう、くらいの気持ちでいいのだ。このプロセスが対話でありエンゲージメントだ。何人にも会っているうちに、報告の内容をどう改善するか、会社の方向をどうしたらいいのか、など納得する回答が得られるだろう。

●社内の連携にも
対話の機会や共通言語を見出すために価値協創ガイダンスが作られた。投資家との対話だけでなく、社内の別々の関連部署が連携しようという場合にも使ったらいい。ガイダンスをうまく活用し、それぞれで使う用語をまず理解することから始めてほしい。