サステナビリティ倶楽部レポート

[第81号] 課題ありながらもクリアして進む世界の女性登用

2018年05月1日

 

●取締役に女性登用10周年のヨーロッパ
財務省の事務次官に関わるセクハラが問題になっており、日本社会ではまだまだ女性が職場で不平等な扱いを受けていることがあらためて示されてしまった。女性登用を国全体的で唱っていながら実態はこのように初歩的なレベルであることが暴露され、社会全体での意識浸透にはまだ遠いことにがっかりだ。大臣含め財務省側に権威意識が強く、名誉毀損で訴えるぞなどと切り返して強いことを言って抑えてしまおう、という姿勢が問題なのだが。

世界を見れば女性が進出できる多様な社会の方が健全で、これを後押しするのは当たり前の状況。職場のセクハラ告発運動として#Me Tooを広めたニューヨークタイムズとニューヨーカーの記者らは、つい先ごろピューリッツァー賞を受賞し評価されているというのに。

女性の登用ではアメリカの事例がよくあげられるが、トップの取締役会の女性登用ではヨーロッパの方が法制度の設定などで熱心だ。2008年にノルウェーが取締役会の女性比率を40%とするというクオーター制を導入し、今年はその10周年になる。これがきっかけとなって欧州各国が同様の制度を導入し、女性が進出することは企業業績にもプラスになるという考え方は大前提になっている。

そんな世界認識のなかで日本は随分と遅れをとっていることは、改めていわなくても想像できるだろう。世界経済フォーラムのランキングでは、144カ国中で114位。宗教上女性の社会進出が阻まれている中東諸国とかわらない低水準、という結果を見せつけられてわかっていても残念・・・。だが、今の状況を見ればあぁやっぱり、という結果でしかないか。

●欧米でも問題は多いが、それを認めて乗り越える
では欧米諸国はスムーズにいっているのかといえば、課題が解決しきれているわけではない。私たちにとって重要なのは成功している結果ではなく、課題が提示された時それにどうやって対応し改善しているかだ。以下は欧米メディアの中で気がついた記事から読み取れる内容だ。

まず女性が意思決定に参加するというが、プラスに影響するという証拠があるのか、という論調だ。
多様性がいいといっても、マネジメントは単一の人材であるよりもより複雑になる。そこまで覚悟して経営側が面倒な問題に長い目で向かい合う姿勢がなければ、短期的には手間がかかる。能力開発と合わせて女性登用に取り組まなければ効果は望めないだろう。MSCIの調査では、能力経営(Talent management)に積極的な経営と女性取締役の多さとは相関にあるという(“Women on Boards and the Human Capital Connection”)。人材の数だけでは良し悪しは決まらない。

社会の多様性については、Economistがドイツの例を”Cool Germany”として取り上げている。勝ち組として成功しているドイツの要因は、産業の成長力というよりも様々な国の人たちにオープンで多様性を受け入れているからだ、という分析だ。ドイツが移民を受け入れる上で相当な問題を抱えていることも伝えられている。それをも認めた上で乗り越えようという社会が評価するされる。

●柔軟で働きがいを重視する女性たち
また女性のポジションを用意するものの、それに見合う資質を備えた人材が十分揃っていないという、日本でよく聞かれる状況も同じく課題にあがっている。「ガラスの天井」というけれども、会社側の要因というより女性の側がそうしたキャリアアップを望んでいない、という事情もあるという。これは、女性が重視するのは柔軟な働き方で、チャレンジングでやりがいのあることを望む志向が強いことに対して、欧米にも特に大企業になるとそうしたニーズを提供しづらい状況があるからだろう。

ならば専門性を身につけていればその強みを生かし自分主導で働けるのでは、とも思える。
ところがその先端である弁護士職についてみると、欧米の法律事務所でもパートナーの女性比率はアメリカとイギリスどちらも18%ということで、意外に低い。専門職の裁量労働が問題になっているが、弁護士は世界どこでも長時間労働の最たる職場なのだ。

専門職とはいえ弁護士はクライアント業(=サービス業)であり、自分からはなかなか変えられないところがある。顧客である企業側から「法律事務所ももっと多様性を取り入れるべきだ」という動きでもあればすぐにでも変わるのだろうに・・・などと、愚痴にも近い意見が聞かれている。

程度の差はあれ、このような論調が今でも欧米の中で語られている。ノルウェーが最初にクオーター制を導入した際でも、こうした懸念は多く上がっておりそれでも「時間をかけて解決していく」という前向きな方向でやりながら改善することで合意を得た。10年経ったところで見直し、「女性の数は増えたが、実績や意思決定など会社の内部が変わったという成果につながっているか」という転機にきている。

現在の問題だけをみて成功や失敗を決めてしまうのではなく、区切りごとに実態を示し、広く意見を求めながら目指す方向に修正していく。取り組みは数年で成果が出るものではなく、これからまだ何年もかけて実を産もうというものだ。

これから欧米を参考に女性のトップを増やそうと頑張り出した日本は、遅々とした進展である欧米を見て「やっぱり女性が増えてもダメじゃないか・・・」となるには早急すぎる。女性取締役比率が3?4%でしかない日本が、いいとか悪いとか言えるレベルではないのだから。

●中国のニューエコノミーで環境変化
これまでのモデルは欧米主導だったが、新興国の動きもアクティブでこれからはこうした国々がどう変わっているのかにも目を向けた方がいい。第76号「ダイバーシティはアジアに学べ」に書いた通りだ。
http://www.sotech.co.jp/csrreport/1240

中国では、伝統的な国営会社や金融機関では女性の上級職がほとんどいないという。#Me Tooも政府の検閲を恐れてだろう、主流になっていない。
しかしながら、ICT関連など新たなテクノロジー業種の間では、女性の活躍についても目覚ましい。意欲のある女性は、オールドエコノミーで我慢して働くよりもニューエコノミーで自分の活躍できる場をどんどん開拓している。起業するにはエネルギッシュでとにかくやってやろうという気持ちさえあれば女性であることがそれほど不利ではないようで、スタートアップのチャンスを大いに使っているのだ。

FTの特集“Women in Business”では「女性の経営者が新しい企業風土を作り出している」として、自動車のシェアリングサービスで成功した創業者やグラフィックデザイン会社を起こした女性の生の声が伝わってくる。ICTを基盤としたビジネスの拡大は、経済の成長だけでなく女性の社会進出にも一役買っている。旧態依然とした国営企業や公的機関を軸とした昔の中国では考えられなかった変革だという。女性がトップであれば、そこで働く女性の従業員も働きやすい傾向にあり、ますます女性の雇用が広がる効果が大きいのも事実だ。

●「日本だけ違う」遅れ
欧米をモデルに、追いつけ追い越せでずっときた日本。先進国でありながら唯一アジア企業で何かにつけ「欧米とは違う」と言ってきたところもあるが、今の時代攻勢をあげるアジアの新興国が欧米と競うエネルギーに同調できずに「こことも違う」状態だ。強みだった「日本だけ違う」が、世界の流れを汲み取れず置き去りになっているガラパゴス状態を指すようになってしまった。

女性登用についても同じことだ。いやしかしその中にある自分としては、嘆いてばかりではいられない。これを変えていこうと気持ちを新たにしている。

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 【2018年度 サステナビリティ経営ネットワークのご案内】
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今年度も、創コンサルティング主催「サステナビリティ経営ネットワーク」を開催いたします。

SDGsの推進が世界のトレンドになっており、新たなビジネスモデルにつながるイノベーションの切り口として”サステナビリティ”が重視されています。また資本市場ではESG投資への意識が広がっており、企業評価の眼にも厚みが出てきたといえるでしょう。
事業のグローバル化が一層広がる現況では、サステナビリティを取り込んだ事業展開とともに日本では意識がされにくい社会面でのリスクへの対応も必要になっており、世界のステークホルダーに向けた経営が求められています。
創コンサルティングの当研究会は、価値創造とリスク対応の双方に着目したサステナビリティ経営について集う研究会です。どうぞご参加ください。

・ タイムスケジュール 〔全3.5時間〕
 14:00~14:30 「ワールドストリーム」  世界の流れを解説(海野みづえ)
 14:30~17:15 ゲスト・スピーカーによる講演 ? 質疑応答、メンバーによる討議
 17:15~17:30 メンバー各社のサステナビリティ報告書へのフィードバック     

・ 日程とプログラム:
 1. 6月13日(水)   最近のサステナビリティ動向のレビュー
 2. 7月24日(火)  投資家によるESG評価
 3. 9月6日(木)   サプライチェーンでの対応
 4. 10月17日(水)  ESG情報の開示とレポーティング
 5. 11月29日(木)  持続可能な開発目標(SDGs)の実践
 6. 2019年1月10日(木) 人権リスク評価
 7. 2月21日(木)   価値創造につなげるサステナビリティ戦略

・ 参加費用:  企業1社あたり200,000円(税込216,000円) 2名様まで参加可

※詳細とお申し込み受付は下記サイトをご参照ください。
http://www.sotech.co.jp/csrnetwork

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