サステナビリティ倶楽部レポート

[第75号] サプライチェーン対策のアップグレード: CSR調達2.0へ

2017年09月26日

 

  • 10年間の進展は?

2006年に「グローバルCSR調達 —サプライチェーンマネジメントと企業の社会的責任」を経済産業省の藤井敏彦さんとの共著で上梓した。それから10年余り経った今日、オリンピックの持続可能性調達コードの導入やISO20400の発行など、サプライチェーンでの対応をもとめる枠組みがさらにできており、必要度合いは増している。

 

一方で、日本企業のCSR調達はどのくらい進展しただろうか?

「CSR調達」と命名し世に示した一人として、その経緯を追わねば。——そこで本書で紹介したイオンの現在の取り組みについて、当社の研究会でお話しいただいた。同社では2003年にPB「トップバリュ」のサプライヤーを対象に「イオンサプライヤー行動規範(CoC)」を制定、労働や環境に関する13事項を要求するとともに監査を導入している。

 

イオンのサプライヤー監査は現在もここで書いたやり方で進められており、大きくは変わっていない。

・・・と書くと進歩していないのかと思われそうだが、そういうことではない。新たに取引が始まる業者数が毎年かなり多いため、新規監査が一定量ある。初回は厳密に行うため、手間がかかるものだ。新製品開発に重きを置くビジネスモデルのもとでは、新業者の開拓も同時に行われこれは避けられない。そのうえで、継続している既存業者の二者監査を行うため、毎年数百件の対象数とかなりの作業量になる。社内の担当チームが誠意取り組んでいるものの、さらなる改善に向けたステップまではなかなかもっていかれない・・・。

 

10年経ち総じて見ると、サプライヤー監査が日本のなかであまり広がっていない現状だ。定着したことは、調達方針の策定とサプライヤーへの要請、アンケートの送付・回収までだ。そのうえでセルフチェックの実施さらにモニタリングまで行うケースは、特定の業種以外は限られているようだ。

 

  • 日本企業の対応に遅れ

電子業界の現状は、第64号「サプライチェーン監査の実際」で述べたように日米間で監査実施の差が開いた状況だ。

[第64号] サプライチェーン監査の実際

EICCに参加せずに自社でモニタリングや能力向上活動を行う会社もあり、そういった成果も伺ってはいる。それでも「アメリカの担当者から、わが社の取り組みは10年遅れていると言われた」というある担当者の話を聞いて、やはり・・・という思いだった。

 

ほかに日本企業との開きがみられる分野は、農林水産物を扱う業種だ。海外の競合他社では、市民社会や同業他社と一緒にプラットフォームを組成しそこで解決に向けた様々な取り組みが繰り広げられている。自社の管理範囲ではやりきれない問題を、連携して取り組もうというものだ。日本企業も多いに活用したらいいのだが。

 

拙著の最終章「グローバル経営とCSRサプライチェーンマネジメントの将来」の最後の部分では、日本企業はサプライヤーとの協同の実績を多く持っているのでそれが強みになると前向きな見解を示し、「CSRサプライチェーンマネジメントは、実践を通して日本が世界的課題の解決に貢献するひとつの形になるのではないだろうか。」と締めくくった。

積極的な企業が引き金になって他社も追随し、さらに監査を受けた会社が自らのCSRにとどまらずその先のサプライヤーとも協力してこの活動が連鎖する——。

そういったイニシアティブを期待したのだが・・・。

 

  • 消極的なサプライヤー

要請を受けるサプライヤー側は、どうみているのか。

中小企業の現場では、例えば人材が集まらないために外国人実習生に頼らざるを得ない、など労働状況はひっ迫している。アンケートへの回答程度はできても、厳密な実施が実は厳しい。余裕のある大手企業がいってくるキレイゴトだ・・といったつぶやきが聞こえてきそうだ。

 

一方ある程度規模がありそこまで人材不足が深刻ではない企業であると、今度は行動規範の要求事項ならばそれほど問題なくクリアできてしまい、監査への緊張感もなく改善の発展に結びつかないという実状も聞かれる。彼らがその先のサプライヤーにも管理を求めるというインセンティブもなく、そこで終わっており広がりが出てこない。

 

10年経ってもこの状況に変化がないということは、これまでのやり方に課題があるということだ。日本以外の国が進んでいるならば、彼らの中にうまくいくやり方や工夫があるだろう。そんな例を参考にして、今のアプローチを根本的に変えていかなければいけないのではないか・・・。

 

  • 既存路線の延長でなく飛躍的な突破口を

そこで今までの延長策でなく、イノベーティブなアプローチ「CSR調達2.0」を目指したい。そのための切り口を考えてみよう。

 

まず、調達基準のあるべき項目をまんべんなくチェックするのではなくする、特に問題になっているところを本気で考え優先的に取り組むことだ。日本国内の外国人技能実習制度、紛争地域からの移民労働者などの社会問題はより深刻になっている。「人を大事にする」理念を掲げている会社がサプライヤーの現場の問題に目をつぶっていていいのか、自問自答してほしい。

 

真面目に取り組むとなったら、サプライヤーの悩みを一緒に考え取り組みや対策を協力していくことだ。アンケート送付などの一方的な依頼だけでこのような厄介な問題が自然になくなるものではない。サプライヤー側の現状を同じ目線で理解するように、コミュニケーションをよくすることだ。マネジメントが積極的に働きかけたことで外国人実習生への技術の伝承が進んだ、といった成功例も聞かれる。

 

途上国の現場労働者や生活者など、末端の現場まで直接の対応ができない場合には、現場とネットワークをつくっているNGOと多いに連携することだ。NGOが主導する認証制度はそのひとつの手段で、基準を満たす商品を購入してその生産地域とつながる、という意味が大きい。

 

さらに飛躍した対策では、昨今のデジタル技術を活用してサプライチェーンの末端と直接アクセスすることが考えられる。デジタル社会の大きな特徴は、階層化した社会構造がフラットな機構になることだ。スマホは世界中の農村部にも行き届いているし、IoTの恩恵で様々なところからデータ収集できる世の中なのだ。サプライチェーンのそれぞれでデータが得られれば、監査などの管理作業に労力をかけなくてすむ。集まったデータを使ってどんな改善をし効果を出せるかを考えればいい・・・ここまで実現できればCSR調達の大革新間違いない。

 

社会構造の変化を起こすことまで視野にいれたサプライチェーンマネジメント。

夢物語ではなく、そんなチャレンジが既に始まっている。海外に目を向け、今の枠にとらわれない解決方法を探ってほしい。