サステナビリティ倶楽部レポート

[第68号] ESG投資と統合報告

2017年01月16日

 

●統合報告発行は300社以上
ESG投資に注目が寄せられるようになってきた。
スチュワードシップコードとコーポレートガバナンス・コードが発行され、GPIFが牽引役となって投資コミュニティに非財務要素への関心が向けられていることがある。その企業評価の材料として、ESG情報の開示要請が高まる。

こうした追い風もあって非財務情報を統合した報告の発行が広がり、今年度は上場企業だけで300社を超える社が発行したという。統合報告の発祥はイギリスで、国際統合報告審議会(IIRC)が提唱する「統合報告(<IR>)フレームワーク」がきっかけなのだが、今では日本の方が熱心で発行数も日本がダントツなのだそうだ。

WICI (The World Intellectual Capital/Assets Initiative) ジャパンはこのフレームワークを推進しており、統合報告の表彰を実施、今年で4回目になる。発行企業数の増加にともない審査委員も強化ということから、私も今回から審査メンバーに加わった。

審査項目や基準は下記のように具体的なものが公表されており、審査員もこれに沿って各自が点数をつけたものを全体会議で討議していく。
http://www.wici-global.com/useful_resorces_newsrelease_ja#post-1459

●ガバナンス関連の情報開示は定着
審査会議は各委員の率直な意見がぶつけられて面白い。これまでのメンバーは、証券アナリストやIRコンサルタントの方々が主流で、財務指標やガバナンスの部分は具体的な一方で、環境・社会面のバランスが取れていなかった。投資側とは直接のコンタクトが少ない私にとっては、彼らの考えを直接伺える機会でよかった。

コーポレートガバナンスについては、ガバナンス・コードが普及した成果で主要な項目はどこも差異なく開示されてきた。次は自社ならではの特徴をどう説明しているかが評価のポイントになってくる。

資本政策や株主パフォーマンスの評価などは自分ではわかりきらないので、このような機会に勉強になる。株主還元策は、8年前に社外取締役をやっていた時にも重要な指標としてみていたので注目。自己株取得と配当について、当時はこれに触れている会社はまだ少なかったものが今では基本開示項目といえ、随分変化していることを実感した。

●開示内容の量から質へ
私は初めてでしかも途中から参加だったので、ともかくまずはこの審査シートに照らして自分なりに評価してみようということでやり始めたのだが、正直いってこれがどうも馴染まない。随分前にCSR報告書の審査員をやった際にいろいろ考えたことがよみがえってきた。

CSRの時はGRIガイドラインの項目に引っ張られてしまい、網羅的な開示になって会社の特徴が出しづらくなっていた。IIRCのフレームワークはそこまで厳格なものでないものの、WICIの審査シートは項目が多くそれぞれに配点する方式なので、それに忠実に掲載していくと点数が高くなる傾向がある。情報量の優劣を問うのではないので、そこは審査会議で協議して判断するのだが、チェックリスト的な使い方もでてしまう。

●投資家も統合思考を
環境・社会面についていうと、「ESG関連」の項目があるのでまずはその情報を記載しておけばいい、ですまされそうだ。重要なことは、個別のパフォーマンスを問うのではなく、EとSがどのように事業活動に統合されているか、これらの要因が業績にどのように関連しているのかだ。ヘルスケアや環境技術等を事業とする価値創造の側面は書かれていても、事業リスク面になると不十分な企業が多い。

投資家が企業を総合的に評価する際にも、ESG要素を埋め込んだ統合思考で臨んでもらいたい。ESG投資額が増えてもESG情報をスパイス的に付加する程度では、社会価値にまでつながらない。評価シートはそこをもう少し明確にしていくよう提案していきたい。

CSRの間で定着しているマテリアリティについても項目があることはいいが、マテリアルと特定されたCSR課題が事業戦略につながっておらず、CSR内だけで閉じて終わっているケースも問題だ。ここも現在の審査シートでははっきりわからない部分だ。

今年で表彰は4年目になるので、初回から力をいれて発行している会社などはだんだん成熟感がでてきている。一方で3年くらい作成してみると、次の内容充実に悩む頃でもある。報告書は毎年発行し、新しく出ればそれまでのものは読まなくなる。毎年内容を変えるのもいいが、継続して記載すべきものが落ちてしまうジレンマがある。例えばオムロンは、昨年のレポートで独自のROICツリーの説明への評価が高かった。今年はその掲載がなくなったことが残念で、評価も今ひとつだった。

●あえてESGの視点で
いくつか課題がありながらも、ESGを切り口に投資家が非財務に関心をもつことで、企業側にも緊張感が生まれている。投資家向けESG説明会を開催する動きもある。環境、社会というと会社内ではCSR担当の出番になるが、投資家側はCSRという言葉は使いたがらず、あくまで”ESG”。企業評価の視点で投資家に環境・社会面を語っていく姿勢を皆さんもっていただきたい。