サステナビリティ倶楽部レポート

[第63号] ホンモノの長期投資

2016年08月30日

 

●年金運用は長期投資ではない
短期主義の投資を是正して中長期の投資を促す方策として、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードが策定され実施されている。中長期投資はちょっとした流行り文句になっており、ESG投資もそれとともに広がりをみせている。

そこで「長期投資」を掘り下げてみよう・・・ということで、弊社の研究会で独立の投資機関を講師に招き、運用の方針や実状をお話してもらった。きていただいたのは、さわかみ投信の澤上篤人会長とレオス・キャピタルワークスの八尾尚志シニア・アナリストだ。

澤上さんとのご縁は、2000年ころSRI投資が始まった時に、長期投資の勉強会に参加させてもらったことに始まる。勉強会といっても、夕方オフィスの会議室に集まり、後半はビールを飲みながら皆でワイワイ好き勝手に話すもの。外資系のファンドマネージャーなど自分の投資ポリシーを持って個性のある方々ばかりで、話の内容は面白かった。私は欧州でSRI会議に参加して感じたことなどを話題にして、交流に参加していた。澤上さんの長期投資にかける想いがフランクに伝わってきて、垣根のない付き合いができたことが印象に残っている。

当時のさわかみ投信は、資産総額がまだ500億円ほどの初期のステージ。そんな時に「まず1000億目標。そうすれば2000億まで伸びるのはすぐなんだ」と熱く語っていたのだが、投資を知らないワタシは「そんなうまくいくのかね~」と実は懐疑的で様子見の姿勢だった・・。それからリーマン危機などあって10年くらい離れてしまったにもかかわらず、今回お話してもらおうとコンタクトした。そして現在の資産額を確認したところ2600億円ほどで、一時は3000億円超えのファンドまで成長しており、わぉっ!オフィスも大きなところに移転、ホントに有言実行しちゃってる人なんだ~、とあらためて思ったところなのだ。

その澤上さんが語る長期投資とは。
「なくてはならない必要な会社」「業界のなかで、儲けばかりでなくまっとうな経営をしている会社」を自分の基準で選び、その会社の株を購入しずっと持ち続けることだという。株で儲けようというのではなく、「いい会社」を応援するということだ。いい会社なのだから、経営が続き業績も伸びる、その結果投資家も潤って長期の資産形成が可能になる。

長期投資とは、株価が下がったところで買い、上がったところで少し売って次に下がった時にその資金でまた買うものだ。個人の投資家ならば当然の投資行為なのだが、機関投資家となると運用益を上げるため、株価が下がり出したら底をつく前に売却、上がり出したらピークに向けて購入という行為をとる。年金基金の運用であっても、そのファンドマーネジャーは四半期毎に運用実績を問われるので、中長期などといっていられない。また特定のファンドマネージャーが生涯にわたって運用に関わるわけでなく、組織の一員となってしまうので担当者のコミットメント意識も薄れてくる。これが年金運用の内幕で、長期に続く基金であっても長期投資といえない実状なのだ。

さわかみ投信は独立の運用機関なので、四半期毎の成績など気にしないポリシーで「ホンモノの」長期投資ができる。これに賛同する個人投資家の資金が集まった結果が、2600億円なのだ。いい会社を応援する個人投資家こそが長期の運用ができ、それが翻って各自の資産の増加にもつながる。この投資の神髄を教えるべく、澤上さんは日本全国を講演し奔走している。

●経営者のスタンスが最大の投資基準
レオス・キャピタルワークスも、個人投資家向けにひふみ投信を展開している。ほかにも独立系のファンドがいくつか出来ており、個人の資産形成の裾野が広がっている。レオスでは、中堅企業を投資対象としているところが特徴だ。なかなか個人では名の知れていない銘柄の会社まで発掘できないので、このような機関が評価してくれれば投資しやすくなる。

会社全体を評価して投資対象を決めており、そのなかでも中堅企業の見極めは人の可能性への投資だといっている。そこでESGそれぞれの要因をどのように分析しているのか、CSR担当者として気になるところだが・・・。実はDow Jonesの評価といったESGの開示情報を細かく分析するわけではないという。分厚いCSR報告書など、それほど見ていない。CSR担当者としてはガックリなのだが・・・。

長期投資家が大事にしていることが、経営者との面談だ。ビジョンやミッション、オーナーシップ、インセンティブについて、経営者がどのように考え実行しているかを直接話して聞き取る。会社の姿勢はこれで大方わかるという。データによる分析はその理論的な説明といった具合だ。また財務データをじっくり見ていけば、特別にESGや主要な非財務要因のデータがなくても経営の状況がわかってくるという。多くの機関投資家は短期での運用実績を問われるために主要な財務指標だけで判断するが、長期投資家はそのような成績は気にせず、財務状況を深堀りしてじっくりと分析する時間をかけることができるのだろう。

●資産運用は個々人の生き方そのもの
独立系の投資家のお二人を見ていると、投資とは生き方そのものだと思えてくる。
澤上さんは、ここまでさわかみ投信を成長させた今、運用で得た収益で社会的に意義ある活動を展開している。これも10年前澤上さんがおっしゃっていたことだ。
 「社会のために、カッコよくおカネを使っていきたい」

そのひとつが、オペラ財団の創設だ。
才能ある若手のオペラ歌手をオーディションして育成している。そして毎年オペラの公演を開催。今年は奈良平城京に野外ステージを設けて行うそうだ。
http://www.sawakami-opera.org/

また地域のNPOを助成する財団も運営している。
それもこれも、資本市場の経済論理に基づいておカネを回しているからこそできることだ。ホンモノの長期投資は、社会を豊かにしていく。
澤上さんの生き方そのもので、こんな話を本当に楽しそうにしてくださる。聞いている私たちも、将来に向けて明るく前向きになってくる。若い人にはもっともっとこの話を聞いてもらいたいと思った研究会だった。