積水ハウスの持続可能な木材調達

■ 概要

持統可能な木材調達の動きは、製紙業界から始まり建設業等の木材に関連する業界にも広がりはじめている。なかでも積水ハウスは、NGOやサプライヤーと協業しながら積極的な取り組みを開始している。

■ 社会課題と背景

木材調達の課題は、生態系の破壊、地球温暖化の促進、違法伐採、林業に携わる人々や地域の生活などが挙げられるが、普段の暮らしでは身近に感じることの少ないサイレントな痛みである。
木材調達に関する法規制としては、日本では「グリーン購入法」(*)があるが、今のところ欧州諸国のような強制力はなく、持続可能性については配慮事項に留まるなど、企業が調達政策の変更を強いられる状況ではない。

このような社会背景において積水ハウスが先行的に取り組む意義は、1.自社理念のもとに持続可能な社会創りに貢献すること、2.事業上の大きなリスクとなる前に先手を打って対応すること、加えて、3.木材調達における優位性を築こうとする戦略が伺える。
これは生育に時間のかかる天然資源の特性から、早期にサプライヤーとの関係を確保しておくことが重要と考えているからだ。

■ 取組み内容と進め方

同社では、CSRの取り組みをサステナブル社会の構築に向けた「未来への責任」と称しており、木材調達についてもこの方針に沿って2007年春に住宅業界初となる「木材調達ガイドライン」を発表した。
http://www.sekisuihouse.co.jp/sustainable/2007/highlight/high06.html

同ガイドラインは、調達すべき木材の是非について、単なる「形式的な合法性」にとどまらず、貴重な生態系からの伐採や国内林業の衰退問題といった「持続可能性」についてまで実質的に判断しようとする点に独自性がある。

進め方は、まず職買部門、開発部門、技術部門、生産部門、環境部門からなる部署横断的なチームを構成するところから始め、木質建材を取り扱う主要取引先に対し、設備や部材に使用している樹種や原産地などを詳細に調査した。
調査結果をもとに指針を策定していく際には、ガイドラインの客観性、透明性を確保するために国際環境NGOであるFoE Japanとの情報交流を行い、第三者の立場からアドバイスや協力を得た。

次に、原則から現場での実践に落とし込むために、各指針について5段階でのスコアリング評価に展開した。各サプライヤーから記入してもらった部材毎の調査票を基に、各指針のスコアを集計して総合評価を行う。総合評価は得点に応じて4段階にランク分けされ可視化される。結果をもとに優先取り組み事項を絞り込み、改善策を実施していく。

この評価には木材のトレーサビリティ(追跡可能性)が必要であり、木材の伐採地情報の提示などサプライヤーとの連携が不可欠である。現時点では、同社が調達する木材について代採地までの複雑な流通経路情報が全て把握できているわけではないが、連携を強めることにより現場での実際の改善を促し、流通ルートの透明性向上やサプライヤーの調達力向上も期待される。

取り組みはまだ始まったばかりであるが、初年度2006年度の結果が出ており、NGOやサプライヤーとも共有化できる明確な目標設定が可能となる。今後の成果に注目したい。

■ ポイントの解説

事例の特徴として、自社に関連する社会の要請を察知するセンスと、主要なステークホルダーであるNGOとのエンゲージメントに着目したい。

木材調達の課題は、当社提唱の戦略的CSRフレームワークでは「CSRリスクを克服」に該当する。ハウス事業において社会・環境に与える影響としては、他にも宅地開発における森林伐採や、建材の化学物質の安全性、リサイクルなどが挙げられるが、木材の問題は調達ルートが複雑で影響が広範囲に及ぶため非常に見極めにくい点が課題である。

同社ではあえて難しい課題に他社に先駆けて取り組むことでリスクをチャンスに変えようとしている。製紙業界がNGOからの指摘を受けていることを横から見ていて、社会要請が次に住宅業界にくる、という感覚が働いたためだ。こうした先読みのセンスはCSR戦略では重要になる。結果として単なるリスク対応を超えた積極的な「未来への責任」の表れとして評価されることになるだろう。

NGOを社内の重要な意思決定の過程に入れることには、当初社内から相当の抵抗感があったという。しかし製紙業界の勉強会に数少ない住宅メーカーとして参加した肌感覚から、国際的にネットワークを持つFoE Japanとの協業がプラスになるとの判断が働き、徐々に対話を重ねて信頼関係を築いていった。
今では「持続可能な木材調達」という共通課題解決に向けた協働の域に達しており、ステークホルダー・エンゲージメントの好例であろう。

積水ハウスの担当者は、「敵対関係になってからでは良好な関係を築くのは難しい。その前にいかに対話して味方になってもらうかがポイント」と、課題解決の姿勢で接することの大切さを語っている。

 

(*)<参考>グリーン購入法の改定について
2006年4月に改定された「グリーン購入法」で、政府機関が調達する木材・木材製品(紙や文具等含む)の原料は合法性が証明されたものでなければならない旨が定められた。ただ、立法過程での関係業界の意向を反映して、合法性の証明方法は事業者独自の取組みによる形式的な合法性で足り、持続可能性は配慮事項に留まるとの結論に落ち着いた。
この改正法は、民間企業に対しても事実上の影響力を生ずるものの、欧州諸国のような強制力のある規制で無いこともあって、企業に対して直ちに調達についての政策変更を強いる状況とはなっていない。

 

余談だが、私の父親が建築家で、高校時代に家業の手伝いで図面を描いたり、現場で大工さんの手伝いをしたりしていたことがある。いい木材の住宅は所謂「気」がいいもので、上棟式(建前)の時のいい木の香りが思い出される。
積水ハウスの「持続可能な、いい木材」が使われている住宅は、住む人にとってきっと目に見えない精神的効用があるのではないかと期待している。(鷹野秀征)

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